あやしき恋と陰陽師!

 ――ザシュッ!
 刀を振る緋暮から目を逸らさずにいると、背後でボトリと何かが落ちる音がした。
 
 ゆっくりと振り返ると、さっき妖魔を刺したサソリが倒れていた。
 そっか。私が刺されそうになってたから……。

「刀向けられて目も瞑らへんの? 少しくらいビビったらええのに」
「緋暮が私を斬るなんて、あり得ないもん」

 そう言い切ると彼は目を見開き、それからため息をついた。

「……ハァ〜。えらい信頼されとるわ、僕も」

 グッと私の顎が強引に持ち上げられ、視線が交差する。
 私を見つめているのはいつもの漆黒ではなく、黄金色。細められた目の奥に、苛烈な炎が見えた。

「これは忠告や。馬鹿げた信頼は身を滅ぼすで」
「バディを信頼することの何が、馬鹿げてるって言うのよ」

 じっと視線を逸らさずいると、先に根負けしたのは緋暮のほうだった。
 顎から手を離したと思うと、今度は私の手首を掴んで口に寄せる。

 まるで脅すように、ちろりと舌を這わせた。
 先端が僅かに二つに割れた、蛇のような舌。

「……ほら。気色悪いやろ、こんな化け物」
 
 いつか身体中の傷を見られたときとおんなじ台詞が、聞こえた。
 だから私もおんなじセリフで返してみせる。
 
「そんなこと、これっぽっちも思ってない」

 さっきから緋暮が、わざと私を怖がらせようとしてるのは分かってた。怯えたり、逃げ出したりすれば良いって思ってるんだ。

「どんな姿でも、緋暮は緋暮だよ」

 黄金の瞳を見つめると、彼はグイっと私の身体を引き寄せてきた。
 
「こんなに近くで見ても?」
 
 その語尾は微かに震えていた。

 そして緋暮は、迷子の犬みたいに私の肩に頭を置いた。

 だから私は手を伸ばして、白い髪を撫でてやる。

 大丈夫だよ、って。

「ねぇ。今度こそ緋暮のこと、教えてよ」
「……僕の負けやね」

 ポツリとつぶやいた彼は、顔をあげる。
 金色の瞳は、少しだけ潤んでいた。

「――僕の母親は蛇のあやかしや。僕な、半人半妖やねん」