あやしき恋と陰陽師!

 指令の場所にいたのは、妖魔化する寸前のあやかしだった。

『ウガッ……タス、ケ』

 闇に呑まれかけているけど、右目にはまだ正気の光が宿っていた。
 縋るようなその声に、心臓が掴まれる。

 ――この子は、助けを求めてる!

 緋暮との約束が浮かばなかったわけじゃない。
 それでも、今ならまだ間に合うと思った。

「すぐ助けてあげるっ! 【我は汝を還すも、」

 ――ガサガサッ!

 その時、突然茂みから飛び出してきたのは、一匹のサソリだった。
 眼前の光景がスローモーションのように見える。

 ――グサリ。
 不気味な聞こえた次の瞬間……あやかしの妖力がドス黒く染まった。

「なっ!?」

 サソリに刺された途端、一瞬で妖魔化してしまったのだ。

 ありえない。その妖魔化速度は、明らかに異常だった。
 思わず詠唱を止めた私の方に、妖魔が勢いよく飛びかかってくる。

 ――やばい!

 攻撃を覚悟し、せめてもの防御にと錫妖杖を両手で構えた直後。

 一閃、刀の太刀筋が見えた。
 
「グ、ガゥ……ッ」

 妖魔が崩れ落ちる。
 目の前では、フードを深くまで被った何者かが――刀を鞘に収めていた。

「あなた……陰陽師? 救援に来てくれたの?」

 一陣の風が吹く。
 彼が纏っている膨大な妖力が私の頬を撫でた。

 ――違う。
 この気配は、あやかしだ……!

「ねぇ、あなたっ!」
 
 彼は私を無視し、背を向けて歩き出す。
 その歩き方を、私は知っていた。
 
「緋暮でしょ!」

 ぴたり、と彼――緋暮は足を止める。
 そして私は一歩一歩近づき、頭をすっぽりと覆い隠すそのフードを捲った。

 現れた白い髪を、赤い月が照らす。

 髪で隠れた左耳。右耳には、見覚えのある札状のピアス。
 ゆっくりと振り返った緋暮の瞳は――金色に輝いていた。

 縦長の瞳孔が、私を射抜く。
 露わになった首筋には、鱗のようなものが浮かんでいる。
 
「あーあ、バレてもうた」

 口の中から覗くのは鋭い牙と、細く二又に分かれた舌。
 その特徴は……彼の契約あやかしと同じ、蛇そのもので。

「緋暮が、あやかし……?」
「半分正解、ってとこやね」

 緋暮はゆるりと目を細めたかと思うと……再び刀を抜き、目にも止まらぬ速さで斬りかかってきた。