あやしき恋と陰陽師!

 彼女を先に帰らせ、残った僕はシロを摘み上げた。
  
「……椿ちゃんを連れてきたんは、お前やな?」

 白蛇はシュー、と鳴きながら身を縮こまらせる。

「別に怒ってへんよ」

 己の契約あやかしを離し、腕をぐっと伸ばす。
 身体はどこもかしこも傷だらけ。巻かれた包帯からは血が滲み続けていた。

「改めて、ひっどい身体やなぁ。こんなん見られてもうたんか」

 無意識のうちに、普段は髪で隠している右耳に触れていた。
 ピアスの空いていないほうの耳。頂点の部分には、一度千切れかけたような跡が走っている。

「ま、今日が月食(・・)やなかっただけマシか」

 身体中の古傷が疼くのはよくあること。しかしこの右耳だけは、特に強く痛む。
 この傷も雪女を浄化した際、彼女に見られてしまったことを思い出す。
 
 朝霞椿。
 強い志と優しさを持っている、太陽の光みたいな女の子。
 
 困惑、劣等感、羨望、感心、そして僅かな期待と渇望。
 分かっている。僕がこんなに感情をかき乱される相手は、あの子だけだ。
 
「……きっと僕の秘密を知ったとしても、気にしぃひんのやろなぁ」

 ぽつりと溢せば、契約あやかしはシャシャっと鳴いた。
 
「せやったら何で、椿ちゃんに話さんかったんやー、って?」

 シロは、その通りだと言うように腕に巻きついてきた。
 どうやらこの白蛇も、相当彼女のことを気に入っているらしい。

 指先で、目元を覆う。
 窓から差し込む月光は、僕には少し眩しすぎる。
 
「シロ、お前もよう知っとるやろ?……僕たち蛇は(・・・・・)、臆病やねん」