淡々と告げられたそれは、遠くの国の言葉みたいに聞こえた。
「死ぬ、って」
「有り得へんことやない」
緋暮の右手が、私の顎を乱暴にぎゅっと掴んだ。
氷のような眼差しから目を逸らすことを、彼は決して許さない。
「不利なときは応援を呼ぶ、深手を負ったら撤退優先。陰陽師の基本中の基本や」
「……っ!」
そんなの知ってる、とは言えなかった。
覚えていたとしても、私は今さっき真っ向からそれに背いたのだから。
「ここ数十年、陰陽師が死亡する事例がほぼ発生しなかったのは何でやと思う? 陰陽師がこの基本を徹底したからや。簡易祓滅術を、皆が使うてたからや」
緋暮の言葉は、全部正論だった。
妖力を込めて【急急如律令】と叫ぶだけのものが、簡易祓滅術。妖魔を祓うことに特化した詠唱。
素早く効率的に妖魔を祓うためににずっと、長年改良に改良を重ねられたものだった。
そう、祓うだけなら妖魔が多少強くたってさほど難しくはない。
だけど浄化術は違う。難易度は桁違いだって、私が一番分かってたはずだった。
ソロで活動していたときは引き際を見極めて、無理そうな時は簡易祓滅術にシフト出来ていた。
目を背けていた事実を突きつけられ、自覚する。
妖魔の動きを止める術が使えるバディが出来て、私の中に欲が出てきてしまったのだ。
緋暮と出会って、その強さに寄りかかって……私は。
『――二人で力を合わせれば、どんなに強い妖魔でも浄化できるはず!』
そんなことを思ってしまった。
甘えだった。
思い上がりだった。
「先、帰るわ」
杭を打たれたみたいに、足が一歩も動かない。
だけど私はこの時、無理にでも緋暮を追いかけるべきだったんだ。
追いかけなかったから今、犬飼さんにこんなことを言われている。
「緋暮からさっき、連絡があった。椿……お前とのバディを、解消したいと」
