あやしき恋と陰陽師!

「そういえば、椿さん……先日浄化していただいた後に、こんなものを見つけて。そういえば妖魔化する前、チクリと痛んだような」

 おフユが着物の袖を捲る。
 その腕には、何かに刺されたかのような傷跡が残っていた。

 そこにニャーコと話していた橋姫も入ってくる。

「貴女も? 実は、わたくしもよ。妖魔化する前に痛みが走って、そこからは記憶が無いのだけれど……」

 橋姫の手首にも、噛み傷のような痕が残っていた。

「どうしたん?」
「何の話ですか?」
 
 言い争いをしていた男子二人もこっちにやってきた。治癒師の周くんは傷跡を見て、難しそうな顔になる。

「この傷跡……嫌な妖力を感じます」
「妖力? どういうこと?」

 聞き返したその時、ニャーコの尻尾が急にピンっと立った。

「――妖魔の気配にゃ!」

 猫又はあやかしの中でも特に勘が鋭い。異変を感じたときは誰より早く、ニャーコが周囲に知らせてくれるのだ。
 しかし、周くんは眉を顰める。

「おかしいですね……本日この時間には、妖魔の出現は観測されていなかったはず」

 彼の所属する詠暦院は、『暦詠み』――その日出現する妖魔の種類と方角、出現時刻を占うのが仕事だ。
 言ってしまえば、精度の高いあやかし版天気予報みたいなものなんだけど……。

「でも本当にいるにゃ! 嘘じゃないにゃ!」
「いえ、疑っているわけではありませんよ。暦外れ(イレギュラー)、つまり、我々の観測外の妖魔など、滅多にいないのですが……」

 必死に訴えるニャーコに、周くんは頷く。
 
「今一度、暦を詠んで確認します」

 緋暮も異論はないようだった。