あやしき恋と陰陽師!

 椿ちゃんが部屋を出て行って五分。
 僕はまだ、顔を手で覆っていた。
 
「照れとんのとか、どの口が。あー、熱出てて良かった」

 熱いのは、熱のせいじゃない。
 
「さっさと目を覚ませ、僕。思い出すんや」

 そのまま目を瞑る。
 瞼の裏に映るのは、地下室の鎖で繋がれた白髪の女が喚き泣き叫ぶ姿。

 隣で鬼のような顔をしているのは、父──芦ヶ谷家の当主だった。

『貴方のために尽くしてきたのに! ここから出して、せめて緋暮だけでも!』
『煩い! お前を妻にしたのは、その強大な妖力を芦ヶ谷の血に入れるため。それがまさか――』
『私を騙したのね!』
『騙したんはお前やろ! 俺の息子がこんな◼︎◼︎◼︎になるなんて、恥晒しもええとこや!」

 飛び交う悲鳴と罵声、鈍い音。
 
 次に映し出されたのは、誰も居なくなった地下室。
 鎖の繋ぐ先はあの女ではなく、僕自身の腕へと変わっていた。冷えた地面の感触まで蘇ってくる。

 ゆっくりと、目を開けた。

「……嫌ァな記憶」

 普段は髪で隠している右耳の先、古傷のあたりがジクジクと痛み始める。

 色恋沙汰など、僕には関係のない話だ。関係あってはならない話だ。
 椿ちゃんはあくまで、単なるバディ。
 
 そうやって何度も唱え続け、己を戒めていれば、闇の中にぽつんと浮かぶような心地がしてきた。あるいは沈んでいるのかもしれない。

 ――恋だとか、愛だとか。

「ほんま、くだらん話や」