あやしき恋と陰陽師!

「なぁ」
 
 周くんも戻ったし、私も帰ろうとしていたら、神妙な顔の緋暮に呼び止められる。
 
「僕がほんまに西部のスパイや言うたら、どないする?」

 思わずギョッとしてしまう。
 しかし彼は「冗談や」とは言わなかった。

「少なくとも父上……芦ヶ谷の当主は、僕をスパイとして送り込んだつもりやろうし」
「なっ」

 西部のスパイ? 周くんが言ってたことは、本当ってこと?

「西部も東部も同じ陰陽師の仲間なのに、何で、」
「利権の前では、陰陽師もただの人。上は蹴落とし合いばっかりや。少なくとも西部は」

 彼の黒い瞳が、一瞬見たことがないような陰を帯びる。
 しかし、次の瞬間にはもう普段の色に戻っていた。
 
「安心しぃ。『東部は無能のボンクラ集団でした』ってちゃーんと報告したるから」
「誰が無能ですって!」

 いつもの調子になった緋暮からはもう、何も読み取れなかった。
 
 心臓がざわりとする。
 離れたところで、だけど確かに火種が燃え始めたかのような、そんな胸騒ぎがした。