あやしき恋と陰陽師!

 白い大蛇に乗った男の子を、ぽかんと見つめる。

 キューティクル輝く黒髪、つんと尖った顎、人を小馬鹿にしたようなタレ眉、ふてぶてしい光を宿した漆黒の瞳。
 そして下唇の小さな傷と、札形をした左耳のピアスが印象的だった。
 
 普通の女子たちが見たらキャアキャア言いそうな、アイドルっぽい甘いマスク。だけど、その美少年はどこか冷たい雰囲気を放っていた。

 彼が纏っているのは私と同じ陰陽師の制服だけど、見たことのない顔だった。

「誰!」
「誰やろねぇ」

 私の問いには答えず、彼は乗っていた大蛇から飛び降りた。
 その手の中には、一振りの刀。
 
 空中で一回転した彼は、私をぐるぐる巻きにしている一反木綿へと斬りかかる。

「【天網恢恢(てんもうかいかい)()にして漏らさず。刻む刹那(せつな)永久(とこしえ)に】」

 彼が唱えると、うにょうにょと暴れていた一反木綿の動きがピタリと止める。
 
 ──シュバッ!
 次の瞬間、私を締め付けていた白い布はバラバラに切り裂かれた。
 散り散りになった布は、まるで時が止まったかのように空に固定されている。

「ぎゃ〜! 落ちる〜〜っ!」
 
 一方自由の身となった私の体は、頭から落下していく。……このままじゃ、地面にぶつかる!
 
「──浮護符(ふごふ)っ!」
 
 なんとか懐から一枚の紙を取り出すと、羽が生えたかのように柔らかな風に包まれる。
 そのまま私がゆっくりと地面に足を付けたのと同時に、少年も着地したのが見えた。

 ──カチリ。
 刀が鞘に収まる音とともに、彼の冷淡な声が響く。

「【急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)】」

 ──ザッ!
 そして、宙に留まっていた白い布は、消滅したのだった。

「……はぁ、『東京のエース』言うからどない立派な陰陽師が出てきはるんやろって、楽しみにしとったのに」
「え?」

 彼は見下すように私を見て、思いっきり鼻で笑う。

「期待外れもええとこやわ。ほなまた」

 こうして突然現れた京都弁の少年は盛大に煽ってきたかと思うと、従えた大蛇の背に飛び乗り、暗闇に消えていったのだった。