「今日もいいお天気になりそうね」
窓から入り込む日差しに、にっこりと微笑む。
私が田舎町マルジェへ引っ越して半年が過ぎた。
あの日、私がノクティス家に見切りをつけて、すぐにここマルジェへ向かった。馬車を乗り継いで四時間、ようやく到着した頃には、日が暮れかけていた。
緊張しながら鍵を入れ、扉が開いた時は心底ホッとしたものだ。記憶を頼りに来たはいいものの、実は鍵が違ったり、家がなかったとか、そんな結末は笑えないからだ。せっかくここまで足を運んだのに、野宿になってしまう。
安堵に包まれて家に入ると、長年人が使用していなかったとは思えないほど綺麗に整理されていた。多少ホコリっぽかったのはあるが、数日間窓を開けて換気すると、すぐに良くなった。
木造りのベッドに本棚、キッチンには料理する道具も揃っていた。
生活雑貨も一通り揃っていて、生活するためには困らなかった。
昔母と過ごした記憶が不意によみがえる。母もここで料理してくれたっけ。
母はあまり裕福でない男爵家出身だった。
そのためなのか自分の身の回りのことは、一通りできた。私も母からは色々なことを教わった。
それが今、役立つことになるなんて。改めて母に感謝せずにはいられない。
窓を開けると、心地よい風と朝日が入り込む。
目の前に広がるのは、広々とした野菜畑、そして私の植えた薬草たちが生い茂っている。
隣家とは結構距離があるが、親切な人たちで色々良くしてもらっている。ここ、マルジェの土地は気候が良く、人々が療養に適している土地だと教えてもらった。小高い丘に立派な建物が立ち並ぶが、貴族たちの別荘なんだとか。
そして隣家のおかみさんの紹介もあって、別荘の一つに私が作った野菜を卸している。畑仕事をするのは始めてだったが、ノクティス家ではずっと働き詰めだったから、それに比べたら楽しいものだ。
野菜を育てたこともなかったが、隣家のおかみさんが指導してくれた。それに薬草についてはノクティス家にいた時から本を読み漁っていたので、知識だけはたっぷりとあった。
近くの市場をおかみさんに案内してもらい、野菜と薬草の苗を購入した。土も栄養たっぷりだったおかげか、すくすくと育った。
ノクティス家はあれから音沙汰ないところも見ると、私のことは完全に見切りをつけたのだろう。
このままなにもなく、縁が切れたらいい。
窓から入り込む風を深く吸い込んだ。
すくすくと育った薬草を採取して、自分なりに配合する。
「こっちは咳に効果のあるゼララムの葉、これは血行を良くするマラドナの葉、腹痛にはハラムドの葉……」
本でしか見ることのできなかった薬草を自分の手で育てることができて、すごく感動している。
薬草を採取して、鍋で煮詰めて冷ましたら瓶に詰める。私が作る回復薬だ。
この世には薬草に魔力を注入して作る、ポーションと呼ばれる飲み薬がある。王宮魔術師しか作ることはできないし、とても高価なものだ。
私が作るものは、さすがにポーションとは名乗れないので「癒しのしずく」と命名した。試飲も兼ねて毎回飲んで、自分の体調を確認している。
それにここの環境はよほど私に合っていたのか、嬉しい変化があった。
肌の調子も良くなったし、パサパサで痛んでいた髪もツヤが出てきた。すべてストレスから解き放たれたおかげだろうか。
ノクティス家にいた時は黒ぶちの眼鏡をかけていたが、わざと顔を隠すためだった。
昔、家に来た客人に、容姿を褒められたことがあった。亡き母に似ていると言われ嬉しく思ったが、これを良く思わない人物がいた。
義母とレオナだ。気分を害したレオナは私に当たり散らした。
「このノクティス家で宝石のような娘って呼ばれるのは、私だけでいいの!」
レオナいわく、自分より目立つな、引き立て役でいろ、ということだった。義母も当然のように同意した。
私も目立つことは好まなかったのでレオナの望み通り、冴えない長女を演じてあげていた。
髪はボサボサ、前髪で目が隠れても気にせず、度の入っていない黒ぶち眼鏡をかけ、白い肌を隠すため、わざとそばかすをかいていた。
こうやって目立たない自分を作りあげてきた。すべては自分自身を守るためだったが、もっと早く自分を解放するべきだった。
自由に生きると決めたのが、余命宣告されてからだったなんて、皮肉な話よね。
だからこそこの一年、誰にも気兼ねなく生きるし、やりたいことは全部やってみせる。
それに、ここに越してきて、不思議なことに胸の痛みがなくなった。ピタッと無くなったことで逆に不安にもなる。ある日突然、いきなり激痛がきたら、どうしよう? って。
実は余命を宣告されてから、母の薬も止めていた。どうせ一年後には亡くなってしまうのなら、少しでも嫌なことは止めようと判断した。あの薬は苦いし独特の匂いもするし。
私の為に残してくれた母には申し訳ないけど、好きにさせてもらう。
窓から入り込む日差しに、にっこりと微笑む。
私が田舎町マルジェへ引っ越して半年が過ぎた。
あの日、私がノクティス家に見切りをつけて、すぐにここマルジェへ向かった。馬車を乗り継いで四時間、ようやく到着した頃には、日が暮れかけていた。
緊張しながら鍵を入れ、扉が開いた時は心底ホッとしたものだ。記憶を頼りに来たはいいものの、実は鍵が違ったり、家がなかったとか、そんな結末は笑えないからだ。せっかくここまで足を運んだのに、野宿になってしまう。
安堵に包まれて家に入ると、長年人が使用していなかったとは思えないほど綺麗に整理されていた。多少ホコリっぽかったのはあるが、数日間窓を開けて換気すると、すぐに良くなった。
木造りのベッドに本棚、キッチンには料理する道具も揃っていた。
生活雑貨も一通り揃っていて、生活するためには困らなかった。
昔母と過ごした記憶が不意によみがえる。母もここで料理してくれたっけ。
母はあまり裕福でない男爵家出身だった。
そのためなのか自分の身の回りのことは、一通りできた。私も母からは色々なことを教わった。
それが今、役立つことになるなんて。改めて母に感謝せずにはいられない。
窓を開けると、心地よい風と朝日が入り込む。
目の前に広がるのは、広々とした野菜畑、そして私の植えた薬草たちが生い茂っている。
隣家とは結構距離があるが、親切な人たちで色々良くしてもらっている。ここ、マルジェの土地は気候が良く、人々が療養に適している土地だと教えてもらった。小高い丘に立派な建物が立ち並ぶが、貴族たちの別荘なんだとか。
そして隣家のおかみさんの紹介もあって、別荘の一つに私が作った野菜を卸している。畑仕事をするのは始めてだったが、ノクティス家ではずっと働き詰めだったから、それに比べたら楽しいものだ。
野菜を育てたこともなかったが、隣家のおかみさんが指導してくれた。それに薬草についてはノクティス家にいた時から本を読み漁っていたので、知識だけはたっぷりとあった。
近くの市場をおかみさんに案内してもらい、野菜と薬草の苗を購入した。土も栄養たっぷりだったおかげか、すくすくと育った。
ノクティス家はあれから音沙汰ないところも見ると、私のことは完全に見切りをつけたのだろう。
このままなにもなく、縁が切れたらいい。
窓から入り込む風を深く吸い込んだ。
すくすくと育った薬草を採取して、自分なりに配合する。
「こっちは咳に効果のあるゼララムの葉、これは血行を良くするマラドナの葉、腹痛にはハラムドの葉……」
本でしか見ることのできなかった薬草を自分の手で育てることができて、すごく感動している。
薬草を採取して、鍋で煮詰めて冷ましたら瓶に詰める。私が作る回復薬だ。
この世には薬草に魔力を注入して作る、ポーションと呼ばれる飲み薬がある。王宮魔術師しか作ることはできないし、とても高価なものだ。
私が作るものは、さすがにポーションとは名乗れないので「癒しのしずく」と命名した。試飲も兼ねて毎回飲んで、自分の体調を確認している。
それにここの環境はよほど私に合っていたのか、嬉しい変化があった。
肌の調子も良くなったし、パサパサで痛んでいた髪もツヤが出てきた。すべてストレスから解き放たれたおかげだろうか。
ノクティス家にいた時は黒ぶちの眼鏡をかけていたが、わざと顔を隠すためだった。
昔、家に来た客人に、容姿を褒められたことがあった。亡き母に似ていると言われ嬉しく思ったが、これを良く思わない人物がいた。
義母とレオナだ。気分を害したレオナは私に当たり散らした。
「このノクティス家で宝石のような娘って呼ばれるのは、私だけでいいの!」
レオナいわく、自分より目立つな、引き立て役でいろ、ということだった。義母も当然のように同意した。
私も目立つことは好まなかったのでレオナの望み通り、冴えない長女を演じてあげていた。
髪はボサボサ、前髪で目が隠れても気にせず、度の入っていない黒ぶち眼鏡をかけ、白い肌を隠すため、わざとそばかすをかいていた。
こうやって目立たない自分を作りあげてきた。すべては自分自身を守るためだったが、もっと早く自分を解放するべきだった。
自由に生きると決めたのが、余命宣告されてからだったなんて、皮肉な話よね。
だからこそこの一年、誰にも気兼ねなく生きるし、やりたいことは全部やってみせる。
それに、ここに越してきて、不思議なことに胸の痛みがなくなった。ピタッと無くなったことで逆に不安にもなる。ある日突然、いきなり激痛がきたら、どうしよう? って。
実は余命を宣告されてから、母の薬も止めていた。どうせ一年後には亡くなってしまうのなら、少しでも嫌なことは止めようと判断した。あの薬は苦いし独特の匂いもするし。
私の為に残してくれた母には申し訳ないけど、好きにさせてもらう。
