【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

 固く決意を込めると手に魔力を感じる。

 最初は魔力をコントロールするのに苦労したけれど、いつからか使いこなせるようになってきた。それなら、私は人のために使う。
 でもこれなら皆には伝えずに済みそうだと思ったが、脳裏にアレクの姿が浮かんだ。

 どうしよう、私……。

 余命が決まっているから、その間だけでも家族からの防波堤になってくれたらと思い、仮初の恋人の契約をお願いした。本当の意味で彼を縛ることはないと思っていたけど、私が健康体だったら、話はまた違ってくる。そもそも仮初の恋人の期間をはっきりと決めておくべきだった。

 なんて切り出せば、彼は納得してくれるかしら。

 ノクティス家も由緒正しき家柄とはいえ、王族とは格が違う。望めば隣国の姫君とも縁談だって可能だろうに。
 ノクティス家の冴えない長女、ましてや家を飛び出した私とでは、どう考えても釣り合わないわ。

 冷静になって考えれば、私が恋人っておかしな話よね。
 あの時は、そこまで頭が回らなかったけど、私なんて……。

 そこでハッとして顔を上げる。

 止めよう、自分を卑下するのは。

 これはずっとノクティス家で見下されて育った弊害で、思考のクセというやつだ。
 私は嫌な考えを振り払うため、顔を上げた。

 そう、私はこれから、もっともっと自分を好きになると決めたのだから。
 ノクティス家の呪縛など解き放ってやるわ。

 ベンチから立ち上がり、青空に向かって大きく息を吸い込んだ。

「ふぅ、やっと到着した」

 乗り合い馬車を下り、マルジェに再び戻ってきた。

 早朝に家を出てカハルの街に到着したのは昼過ぎ。そのまま真っすぐに診療所へ向かった。その後は久々だったのでいろいろ見て回ったら、思っていたより帰りは遅くなってしまった。

 夕日がゆっくり沈む光景を眺めながら、家までの道のりを歩く。
 空は茜色に染まり、もうすぐ夜がやってくる。
 少し冷たくなった風が頬を優しくなでるたびに、心が落ち着いてくる。
 私はここにいていいんだ、ふとそんな安心感を覚える。

 それにしても余命が延びたなんて。

 本来ならとても喜ばしいこと。だけど、一緒に分かち合える人がいないことを少し残念に思える。

 だって普通なら、歓喜の涙を流す場面よね。

 一人で考えて、自嘲気味に笑う。

 いつか、この先の長い人生で、私の悩みを共用できる人は現れるのだろうか。信頼できて、すべて話すことができる、喜びも苦しみもわかち合える相手に……。

 風にそよぐ薬草に囲まれてポツンと建っているのは、母が残してくれた私の家。
 家が見えた時、ホッとして自然と頬が緩む。

 今日はごちそうを作って一人でお祝いでもしようかしら。

 家に近づくと、ふと人影が見えた。相手は扉を背にして地面に座り込んでいる。

 えっ……。

 その場で足を止め、目を凝らす。相手は眠っているように見えた。

 あれはー―アレクだわ。