【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

「最近の症状は?」

 私はゴクリとつばを飲み込むと、口を開いた。

「胸の痛みはまったくなくなりました。だからこそ、不安なのです。いきなり症状が強く出て、倒れてそのまま亡くなったりとか……」

 医師は耳を傾けながら、カルテに筆を走らせている。

「健康だからこそ、怖くなってしまっています。大事な人たちに伝えようと思ったので、その前に余命をはっきりさせたいです」

 医師は白衣のポケットから聴診器を取り出した。服の上から聴診器をあてる。
 医師は最初、怪訝な顔をして首をひねった。

 えっ、そんなに症状が悪くなっているの!?

 次に立ち上がって背後に回ると、背中に聴診器をあてる。ゆっくりと場所を少しずつずらし、慎重に診ている。
 やがて医師は小さく息を吐き出すと、椅子に腰かけた。

 聴診器を外して胸ポケットにしまい、私と向き合う。

「そ、それで私の診察結果は――」

 切り出す瞬間が一番ドキドキする。緊張で手に変な汗をかく。

 医師は深くうなずくと、真っすぐに私の目を見つめた。

「大丈夫です。あなたは百歳まで生きるでしょう」
「えっ…………」

 その言葉は私の脳を直撃した。

 驚いたなんてもんじゃない。最初はなにを言われたのか理解ができず、頭が真っ白になる。

 診察室の空気が一変し、まるで時間が止まったかのようだった。壁に掛けられた時計の秒針だけが、静寂の中で規則正しく音を刻んでいる。

 医師は重たい眼鏡を整え、再度言葉を吐き出す。

「あなたの体は健康そのものです」

 瞼をパチパチと瞬かせ、医師の言葉を反芻する。

 健康そのもの……? 私が……?

「ええええっ!? う、嘘でしょう……!?」

 理解した瞬間、勢いよく椅子から立ち上がり、医師に詰め寄った。

「だ、だって、私の寿命はあと一年だって……!!」

 私に壁際まで追いやられた医師は、降参と言わんばかりに両手を挙げた。

「も、申し訳ありません、誤診だったようです。あるいは……奇跡的に健康を取り戻されたか……」

 医師もはっきりとした理由がわからないらしく、モゴモゴと言葉を濁す。

「ですが、良かったじゃないですか!」

 パン、と乾いた音が診察室に響く。医師が両手を叩いたのだ。

「あなたは健康そのもの! 長生きできますよ!」

 そんなことを言われても、今さら私はどう気持ちを切り替えればいいのよーー!!

 どうせ死んでしまうのなら、残りの人生好きに生きてやると決意したのだから!

 家を飛び出したのも婚約者を蹴散らしたのも、家族と縁を切ろうと思ったのは、全部余命わずかだと思ったから!

 なのに今さら「健康です」だなんて言われても、感情が追いつかない。
 本来なら喜ぶべき結果なのに、私は立ち尽くした。