【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

 それから屋敷に戻ると一台の馬車が停車していることに気づく。
 チラッと視界に入った紋章に盛大なため息をついた。

 よりによって、こんな日に……。

 歓迎しない客人に気づき、げんなりした。
 でも、むしろ私の人生から無駄を排除すると決めた、今日で良かったのかもしれない。
 善は急げだ、さっさと片をつけようと、気を引きしめた。

 エントランスフロアへと続く扉を開けると、すぐそばに立っていた人物が振り返る。

「リディア、どこへ行っていたんだ!」

 私の顔を見ると声を荒げたのは、ギルバート・エルマー。エルマー商会のボンクラ息子だ。

 ギルバートは風に吹かれれば折れそうなほど華奢な体つきで、背丈ばかりが無駄に高い。彼は、まるで糸で縫い付けたような細い目をつり上げ、常に誰かを見下すような視線を投げかけてくる。

「僕の美しさは、商会の看板以上の価値がある」とでも言いたげな態度を取る、ナルシスト。
 周囲の空気を読まずに振る舞う姿は滑稽だ。仕立ての良い服に身を包んでいても、立ち居振る舞いには品がなく、商会の名を背負うには頼りない印象を与える。

 ギルバートは細い目をつりあげた。

「どこって……。用事があって街へ出ていましたの」
「まったく、僕を待たせるなんて、どうかしているな」

 髪をかき上げるその姿さえイラッとする。そもそもあなた、約束していましたっけ?
 いきなり押しかけてくるほうがルール違反なのではなくて?

 私を軽んじているから、この態度なのだろう。
 そして悲しいことに、親の決めた婚約者でもある。

 格式ばったノクティス家に、資産がたんまりとあるエルマー商会は、貴族との繋がりを求めていた。
 強欲な父はエルマー商会の資産に目がくらみ、エルマー商会は貴族の後ろ盾を欲しがっていた。
 二つの家の目的が一致し、無理やり決められたのが、私と彼の婚約だった。

「早く、中に案内してくれ。喉が渇いた。まったく、君は気が利かないな」

 急かしてくるギルバートにイラッとしつつ、とりあえず応接間に案内した。

「それで用事はなんでしょうか?」

 自分でも冷たい声が出たと思う。紅茶の一杯も出したくない、さっさと帰って欲しい。私の願いも虚しく、メイドが紅茶を準備して入室してきた。
 私とギルバートに紅茶が準備され、焼き菓子と共に出された。

「今日はずいぶんと大口を叩くじゃないか、リディア。僕は君の婚約者だ。もっと大事にしたほうがいいぞ」

 体をくねらせ、パチンと指を鳴らす、ギルバートは自分の行動に酔っている。自分がこの世で一番かっこいいと思っているので、暇さえあれば鏡を見ている。

 ふとした瞬間でも、窓ガラスに映る自分の姿を見て、顔のどの角度がかっこいいか研究している。ある意味、研究熱心な人だ。

「君みたいな女性と結婚してやるのだから、光栄に思うといい。このギルバート・エルマーと結婚できるなんて、名誉なことだぞ」

 偉そうにふんぞり返るギルバートの鼻の穴に指を突っ込みたくなる。汚いからやらないけれど。

 今までは聞き流せたけれど、相手にする時間がもったいない。

 そうよ私、もう我慢しないと決めたばかりじゃない。

 私は紅茶のカップに手を伸ばすと、スッと立ち上がる。
 驚いているギルバートの頭上で紅茶のカップをひっくり返した。

「あっ、あちち!!」

 紅茶を頭から被ったギルバートは慌てふためいた。

「なにをするんだ、リディア!! 僕にこんなことをして、ただで済むと思っているのか!?」
「無礼には無礼で返しただけよ」

 毅然とした態度で相手の目を見つめ、きっぱりと言い返す。