【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

「いくら家族でも、あなたが招待したがらない相手を、私が呼ぶわけないじゃない」
「さすがともいうべき態度だったな。すごいな、驚いた」

 アレクはレオナの去ったあとを見つめる。

「ちょっと、そこ。感心してないで」

 アレクはベアトリーチェ様に注意された。

「家族と接点を持ちたくないというあなたの意志を、尊重するに決まっているわ」

 ベアトリーチェ様は私の両手をギュッとつかんだ。

「だからね、今日はとってもいい日にするわよ!」

 手の温かさが心までじんわりときた。
 テオドールも両手を上げる。

「そうだよ、今日は楽しい一日にするんだからね、リディアお姉さま」

 テオドールはニコッと微笑んだ。その笑顔を見ているだけで、重くなった心がほどけていく。

「こんなに天気がよくて体もどこも痛くない。だから僕はとても幸せなんだ」

 テオドールは満面の笑みを浮かべながら、庭園の一角を指さした。

「ほら、今日のために僕も飾りつけを手伝ったんだ。一緒に見て回ろう」

 視線の先の花壇には色とりどりの花が咲き誇っている。風に揺れる花々が、まるで祝福しているかのように華やかだった。リボンやガーランドが木々に飾られ、陽光を受けてキラキラと輝いている。

「そうよ、いいお天気で良かったわ。まぁ、私の日頃の行いのおかげね」

 ベアトリーチェ様も声を上げて笑う。その笑い声は上品でありながらもどこか無邪気で、場の空気をさらに明るく染めていく。
 アレクがそっと私に手を差し出した。腰回りを支えるその手は驚くほど自然で、優しかった。

「行こう」

 その一言に胸が跳ねる。

 この距離、近すぎるんじゃないかしら。体温が感じられるし、それにこの爽やかな清々しい香りはアレクからだ。彼を意識してしまい心臓の鼓動が、少しだけ速くなる。

「お菓子をたくさん食べよう」

 はしゃぐテオドールに微笑んでいるベアトリーチェ様。それに私の横で優しくエスコートしてくれるアレク。

 私こんなに幸せでいいのかな。

 温かな人たちに囲まれて、本当にこの人たちと一生付き合えたら、どれだけ幸せかと思う。

 だが同時に余命を黙っていることを心苦しく思う。

 とても良い人たちだけど、余命のことを告げたら、どんな反応を見せるだろう。
 ある日突然、寿命が尽きたらどうしよう。

 そのためにも彼らには本当のことを言うべきかもしれない。
 なかなか言いにくいし勇気がいる決断だけど――。

「どうした?」

 アレクが私の顔をのぞき込み、気遣う視線が絡み合う。
 ダメだ、悟られてはいけない。それにせっかくのお祝いの場なのだから笑っていたい。

 私は静かに首を横にふると、アレクの手をギュッと握りしめた。

「綺麗な庭園を見て回りたい。いきましょう」

 アレクは私を見つめ、フッと微笑む。

「ああ、今の時期、薔薇のアーチも見事なんだ」

 丁寧なエスコートを受けながら決意する。

 ――やはり、この人たちに余命の件を伝えるべきだ。

 その前にもう一度診察しよう。あとどのぐらい生きられるのか、はっきりさせてから皆に伝えよう。
 唇をギュッと噛みしめ、心の中で覚悟を決めた。