【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

 そしてあっというまにガーデンパーティ当日になった。
 私は朝からベアトリーチェ様に呼ばれ、別荘にいた。

「迎えに行く手間も省けるのだから、いっそここに住んでしまえばいいのに!」

 ベアトリーチェ様の提案だが、そこまで甘えるわけにはいかない。それに私は母が残してくれたあの家が大好きだ。隣に広がる畑、緑の多い土地で居心地がいい。
 あの家で人生の最期を迎えたいと思っているぐらい。

「ありがたい申し出ですが、私はあの家が大好きですので」
「もう、もっと甘えてくれてもいいのよ。妹なんだから」

 ベアトリーチェ様はやたら妹を強調するが、気が早い。それに、実はアレクとはそこまでの関係ではないのだ。黙っていることが心苦しくもなる。

「さっ、早く準備しましょう。全身磨き上げていくわよ!!」

 ベアトリーチェ様の合図と共にメイドが入室してきて、浴室へ連れていかれた。
 朝から香油の入った湯につかり、その後は全身マッサージを受けた。
 そんなこんなで半日かけて準備をしたといっても、過言ではなかった。

 そしてドレスに着替え、化粧を施すと鏡に映る私が自分でも信じられなかった。

「これが私……?」

 横でベアトリーチェ様は腰に手を当てて、胸を突き出した。

「すっごく綺麗よ。あなた、素材がいいのだから、磨けば光ると思っていたわ。私の想像どおりね!!」

 ベアトリーチェ様は高らかな声で笑う。

 マダム・カミラのデザインしたドレスはレースを使って全体てきにボリュームがあり、サーモンカラーのチュールが施されていた。レースのエレガントさとチュールの軽やかさがマッチしていて華やかだ。キラキラと輝くビジューも散りばめられている。
 髪はハーフアップにしてヘッドドレスを飾る。フラワーとリーフが優美な自然の温もりと彩りを添える。

 今までは無頓着な方だったけれど、綺麗に着飾った自分に気分が上がる。
 これは私の一生の想い出になるだろう。

「どうしたの? 綺麗すぎて声も出ないかしら」

 ベアトリーチェ様が肩に手を置き、鏡越しで目が合った。

「なにからなにまでありがとうございます」

 感謝を伝えるとベアトリーチェ様は視線を逸らす。

「よしてよ。私が好きでやったことよ。あなた、綺麗なのにもったいないんですもの」

 ツンとそっぽを向くけれど、その耳はほんのりと赤くなっていた。
 扉をノックする音が響き、返事をするとメイドが入ってきた。メイドは大輪の薔薇の花束を手にしている。

「失礼いたします。ベアトリーチェ様に贈り物が届きました」

 赤い薔薇は彼女の美しさを現しているようだ。

 花束を受け取ったベアトリーチェ様がメッセージカードを開けると、途端に険しい顔つきなった。
「――これ、処分しておいて」
「えっ、は、はい」

 ベアトリーチェ様は投げやりな態度で、メイドに花束を押し付けた。
 メイドは困惑している声を出しつつも、花束を持って退室する。
 入れ違いで、アレクが入室してきた。

「どうしましたか、姉上。せっかくのパーティの前に」

 ベアトリーチェ様の浮かない顔に気づいたようだ。

「最低よ。さっきまでのいい気分だったのに、台無し」

 手にしていたメッセージカードを読み上げる。

「美しいベアトリーチェ様に薔薇の花束を贈ります。あなたのことを考えると夜も眠れません。早くお戻りになられる日を心待ちにしております。――あなたの虜バルカンより、ですって‼ 気持ち悪いったらありゃしないわ」

 ベアトリーチェ様はメッセージカードをテーブルに叩きつけた。

「最悪よ。どれだけ冷たくあしらおうとしつこく詰め寄ってくるし‼ 贈り物攻撃は止めないし。ここに滞在している間は考えなくてすむと思っていたのに、どこからか聞きつけたみたいね。本当に気分が悪いわ」

 まくしたてるベアトリーチェ様はよほど苦手な相手なのだろう。

「あの蛇のような目つきに執念深さ。私を好きというより、権力を手にしたいだけ。名前すら呼びたくない」

 ベアトリーチェ様は一方的にまくし立て、しばらくすると落ち着いたようだ。

「もう、嫌なことを考えるのはやめるわ。あんな男のこと考えるだけ時間のムダよね」

 肩をすくめたベアトリーチェ様は先に庭園へ行くと言い、退室した。