【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

 翌日、医師を訪ねることにした。長年の謎だったこの胸の痛みの原因をはっきりさせようと思ったのだ。

 家族に知られるのを避けるため、ノクティス家お抱えの医師ではなく、街の医師を選んだ。
 事前に評判が良いと噂される医師の情報を使用人たちから入手していた。

 義母とレオナに見つかる前にカルルの街へ向かうと、さっそく扉を叩いた。
 消毒と薬草の匂いが鼻につく、こじんまりとした診察室で私は医師と向き合った。

 初老にさしかかるぐらいの白髪交じりの頭に、眼鏡をかけた医師は私の話を聞き、カルテに書き込んでいく。助手はおらず、一人で対応しているようだ。

「昔から胸が痛む発作があったのですが、ここ最近は頻繁におきるのです」

 私の症状をすべて聞き終えると深刻な顔つきで、聴診器をポケットから取り出す。
 服の上から聴診器をあて、徐々に深刻な顔になる医師を見ていると、不安に駆られる。
 やがて医師は聴診器を机に置くと、真っすぐに私の顔を見つめる。

「落ち着いて聞いてください」

 医師の言葉にゴクリと喉を鳴らした。

「これは難病のクラッド病だと思います。症状からみて間違いないでしょう」
「クラッド病!?」

 その病は私も聞いたことがある。生まれながら心臓に欠陥がある病気だとか。

「この病気は症状が強く出るようになってから、余命は……一年と言われています」

 い、一年!?

 いきなり余命宣告された驚きのあまり、放心状態になった。

「まだ若いあなたには酷なことですが、クラッド病には特効薬はありません」

 し、死んじゃうの? 私があと一年で!?

 パクパクと口を開けた私に医師は同情したのか、首を大きく横にふる。

「残りの人生、やり残したことがないよう、悔いのないように生きてください」

 そう言葉をかけられたのが最後に、どうやって診察室から出たのか覚えていない。
 たくさん慰めの言葉をかけられた気もするが、衝撃のあまり内容は頭に入ってこなかった。

 気づけば街の中央にある噴水広場のベンチに腰かけていた。

 噴水から流れる水をボーッと見ているうちに、徐々に頭が冴えてきた。
 私の余命はあと一年? 一年後にはどこにも存在しなくなってしまうというの……?

 震える手をギュッと握りしめた。

 医師はやり残したこと、悔いがないように生きることを勧めてくれた。

 思い返せば私の人生、後悔ばかり。
 私に関心のない父、意地悪な義母と妹からは無能と罵られ、こき使われる日々。いつか自由になったらと夢見ていたけど、このまま終わってしまうの……?

 あと一年だなんて短すぎるわ。

 だったら――私の人生、これから取り戻してやる!!

 好きに生きるわ、やりたいことをすべてやって。

 今やらなければ、私はきっと後悔する。だって私に残された時間が限られていると知ってしまったのだから!
 こうなったら――。

 まずはあの家族と決別する、誰にも遠慮なんてするものですか!!

 そして最期にはいい人生だったと、笑って亡くなるぐらい謳歌してやる。

 今の私に、怖いものなどなにもない。

 固い決意と共にすっくと立ちあがった。