【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

「王都で一番流行の最先端をいく、仕立て屋よ! さあ、パーティまでに準備するわよ!」

 ベアトリーチェ様は胸を張り、張り切っている。
 物腰が柔らかな四十代と思われる女性が一歩、前に出る。

「はじめまして、私は銀糸のアトリエの代表、カミラでございます。このたび、私どものアトリエのドレスを所望していただき、ありがとうございます。リディア様の美しさを引き立てるドレスを作ります!!」

 王都で有名な「銀糸のアトリエ」と呼ばれる仕立て屋の皆さんを、ここまでお呼びしたのだろうか。

「は、はい、よろしくお願いします」

 銀糸のアトリエ、マダム・カミラ。流行に疎い私でも名前を知っている有名人だ。彼女のデザインしたドレスは大人気、注文したくても人から紹介がなければ、なかなか受けてくれないらしい。

 レオナもマダム・カミラのドレスが欲しいと、義母にねだっているのを、何度か聞いたことがあったもの。
 そんな高級なドレス、とてもじゃないけど、私が払えるとは思えない。

 私が戸惑っているのを察したベアトリーチェ様が顔をゆがめた。

「……あら。まさか気に入らないの?」

 声のトーンが低くなり、目を細めたベアトリーチェ様に慌てて弁解する。

「いえ、私にはもったいない気がして。それに――」

 恥ずかしいことに、あまり手持ちがないのだ。少し貯まれば薬草の苗を購入するのに使ってしまうから。

「気にすることはないわ。すべて弟が払うから。ねえ、そうでしょう」

 クイッと顎を上げたベアトリーチェ様の視線の先には、アレクがたたずんでいた。いつからいたのだろう。
 扉の横で腕を組んでいたアレクは話をふられ、両肩を上げた。

「ええ」

 アレクの返事を聞いたベアトリーチェ様は満足そうにうなずく。

「ほら。ああ言っているじゃない。遠慮せずに、何着でも頼めばいいのよ」

 そんなこと言われても、じゃあ、お願いします、とも簡単に言えるわけがない。
 アレクは近づいてくると、私の前に立った。

「これぐらいさせてくれ」
「で、でも……」

 渋っているとベアトリーチェ様が深いため息をつく。

「甘えておしまいなさい!!」

 ビシッと凛とした声が響く。

「あなたは私のかわいい妹なのだから!!」

 えっ、違いますけど!!
 だが、口を挟めない雰囲気だ。

「そもそも、あなたドレスを持っているの?」

 ベアトリーチェ様に指摘されるが、私が持っているのはドレス一着。それも昔のデザインだ。

「変な格好をして、弟に恥をかかせる気!?」

 その時、アレクが肩にそっと手を置き、耳元でささやく。

「姉上の頼みを聞いてやってくれ。君のために呼んだのだろうし」

 アレクに言われ、ようやく私はうなずいた。