【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

 気になる箇所を見つけたので、本を手にして椅子に腰かけた。

「――稀に、幼少期より常人を遥かに凌ぐ魔力を宿す者が現れる。その魔力は、未成熟な精神と肉体では制御しきれず、周囲に災厄をもたらす危険すら孕む。ゆえに、彼らは魔力の奔流を鎮めるための抑制薬を与えられることがある。ただ、その副作用として心臓の痛みが――」

 心臓の痛み?

 気になる部分に再度目を通すし、指でなぞる。

 私の症状と似ている。

 本棚に置かれたガラスの瓶をそっと見る。

 母からもらった薬、なにで出来ているのだろう……。

 ふと気になったが、聞こうにも母はもういない。

 ……まあ、たまたま似た症状、っていうだけかもしれないし。

 時計を見ると、すでにいつも寝る時刻をとうに過ぎていた。

「わっ、もう寝ないと!」

 明日の朝食の下ごしらえもしておきたかったが、本に夢中になってしまい完全に忘れていた。まあ、いいわ、今日ぐらい。
 ベアトリーチェ様からいただいたクリームを肌にぬり、私は急いでベッドに向かった。
 
 翌日、案の定、少し寝坊してしまった。

 窓を開けると日は高く昇っていた。私は前日焼いてちょっと固くなったパンと昨日の残りの野菜スープを急いで食べる。
 今日はテオドールのところへ行って、療養施設にも顔を出そう。薬草も植えたいんだよね。新しい苗を手に入れたいな。

 モグモグと固いパンを咀嚼していると、テオドールのところへ行く時間になった。
 私は慌てて朝食を食べ終えると、身だしなみを整えた。

「ちょっと、遅かったじゃない!」

 テオドールの部屋の扉を開けると、視界に飛び込んできたのはベアトリーチェ様。

「すみません、ちょっと寝坊してしまって」

 彼女は手にしていた扇子をパシッと閉じ、私に近づいてくる。そのまま扇子で私の顎をクイッと持ち上げた。

「ちゃんとクリームは使ったようね。今までとは輝きが違うわ」

 今朝起きてびっくりしたこと。それは肌がいつもよりツヤツヤだと感じた。やはり高級なクリームのおかげだったらしい。だが、一目でそれを見抜くベアトリーチェ様が恐ろしい。これじゃあ、お手入れさぼれない。

「ほら、手も。ガサガサしていないわ」

 ベアトリーチェ様に言われたとおり、すべすべしていた。

「本当です……!」

 感動して自身の手を何度もさすった。

「私が言ったじゃない! あなたも少しはマシになったわよ」

 ベアトリーチェ様は満足げに高らかな声で笑う。

「ありがとうございます。ベアトリーチェ様のくださったクリームのおかげです」

 ペコンと頭を下げると、ベアトリーチェ様は一瞬無表情で固まったのち、髪をかきあげた。

「ふ、ふん。別にあまっていたクリームだったから、ちょうど良かったわ」

 おや? ベアトリーチェ様は素直にお礼を言われると照れてしまうタイプらしい。