「さあ、やりますか」
仕事部屋といっても、机一つと本棚が置かれているぐらいで狭く、質素な造りだ。だが、この狭い空間がとても落ち着く。なぜならここには義母と妹はめったに顔を出さないから。
机の上には片付けるべき書類が山になっている。
「なになに、こっちは屋敷の修繕費についてね」
本来なら義母の仕事なのだが、義母は私に丸投げしてきて、いつからか私の仕事になった。
「そして領地の税金に関して、と……」
義母の仕事だけではなく、いつしか父の仕事も渡されるようになったので、困ったものだ。
真剣に書類を手にして読んでいると、ふと胸に違和感を覚える。
中央からジワジワとなにかに浸食されるような感覚が私を襲う。それは、次第に明確な痛みとなる。
「……っ……!」
手で抑え込み、前のめりになり机に突っ伏した。
またきた、この発作……!
冷や汗をかきながらしばらく痛みに耐えると、症状は急にスッと消える。
「……ふぅ」
じんわりと額にかいた汗を拭い、椅子に深くもたれかかる。
実は私には持病がある。家族の誰にも言っていないけれど。
あれは私が六歳の時だったかしら――。
ある時から胸の奥がチクチクと痛むことが増え、亡き母に相談した。
母は驚いた顔をして、私のために自らの手で薬を処方してくれた。
「いい? リディア。このお薬を毎日一回、必ず飲むのよ」
「はい、お母さま」
渡されたのは丸くて小さな錠剤。
あれから大人しく母の教えを守っている。薬を飲み続けていても時折、胸の痛みはあったが、こんなもんだと思っていた。
だが、ここ最近では痛みが頻繁に襲ってくるようになった。
もしかして、私は深刻な病気じゃないのかしら。
ふと不安に襲われる。胸が痛むたび、空気が震えるようなあの独特な感覚。まるで、胸の奥底からなにかが目覚めようとしているような……。
これはいったい、なんの病気なのかしら?
不思議に思いつつ、机の引き出しを開ける。そこには母が残したガラス瓶の中に薬が入っている。母は亡くなる前に、私に大量の薬を残していった。あと数年はもつと思う。
だが最近では、薬も効かなくなってきた。
ここら辺ではっきりさせるべきかもしれない。私を長年悩ませるこの胸の痛みの正体を。
覚悟を決め、母からもらった薬の小瓶をギュッと握りしめた。
