【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

 やはり、断ろう。

 グッと顔を上げた時、

「まさか、今さら止めるとか、言わないよな? 正式に婚約を申し込んだのに?」

 相手は腰を折り、私の顔を見つめてくる。
 私の考えを見透かす視線を投げられて、グッと言葉に詰まる。

 最初は婚約すれば、家族から私を守ってもらえるかもと打算的な考えだった。でも、相手が王太子とくれば、スローライフどころじゃなくなる。

 それに彼ほどの権力者が、どうして仮でも私に婚約を申し込むの? こんなに簡単にしていいわけじゃないわ。公になればノクティス家から勘当された娘と婚約だなんて、マイナスにしかならない。

「わ、私の家は……」

 思い切って彼に告げようと顔を上げる。

「ノクティス侯爵家の長女、リディア・ノクティスだろう」

 私の名前をサラリと告げたことに驚く。だが、すぐに納得する。
 普通に考えたら、自分の大事な弟に近づく女性の素性を調べないわけがない。
 私と出会った時点で私のことはお見通しだった、ってことだ。むしろテオドールの手紙で私の存在を知った時から、調査済みだったとも思える。

「ノクティス家の長女は体が弱く、あまり公式の場に出ないという話だったが……」

 アレク様は両腕を組み私をジッと見つめ、首を横に傾げる。

「元気そうだな、だいぶ」

 その眼差しは面白がっている。
 私の事情をすでに知っていたなんて、なんだか恥ずかしいような悔しいような気持になる。
 私は姿勢を正し、コホンと咳払いする。

 ……もう考えるのが面倒になってきた。

 どうせ私の残りの時間は決まっている。こうなれば私は、彼の話に乗っかかってやるわ。
 家族から逃れられるなら――!!

 私は右手をスッと差し出した。

「う、受けて立ちます……!」
「そんな険しい顔は心外だ。普通なら頬を染めるところだと思うのだが」

 アレク様は言葉とは裏腹に笑いを抑えることができないようで、肩を揺らしている。
 私はゴクッと喉を鳴らす。

「ですが、婚約者はハードル高すぎなので、こ、恋人でお願いします……!」

 もちろん、仮初の恋人だ。
 婚約者となってしまった場合、私の寿命が尽きた時には、婚約者を亡くした悲恋の王太子になってしまう。その分恋人なら、寿命が尽きる前に別れてしまえば問題ない。

「欲がないな。自分で言うのもなんだが、仮に王太子の婚約者を募集したならば、なりたい者がこぞって押しかけると思うのだが。――権力が欲しい奴らがな」

 声が冷ややかな声を聞き、首を横に振る。

「私には権力に興味ありませんので」

 でもそこで、ふと思う。

 私の余命のこと、言っておいた方がいいかしら?

 これは期間限定だから、安心して欲しいって。でも――。