あれからテオドールは元気になったが、今は様子見ということで、毎日治療に通っていた。最近では咳き込むことも熱がでることもないらしい。
鏡台の引き出しに入っている鏡を見れば、今日も元気にミミリーが蠢いていた。
「いつか呪い主に還してあげたいわ」
それまでは鏡の中で大人しくしていてね。
私は折りたたみ式のコンパクトをそっと閉じると、引き出しの中にしまった。
それから収穫した野菜を洗い、朝食の準備をする。大量の野菜を煮込んだスープに焼き立てのパンは、バターの香りが食欲をそそる。半熟でトロッとした卵に舌鼓を打つ。
窓を開けると見えるのは、私が育てた野菜と薬草たち。
心地よい風と太陽の光が入り込む。
ああ、私、今が一番幸せな時なのかもしれない――。
紅茶の香りを楽しみながら、朝食を味わった。
ここ最近では胸の痛みもすっかり消えた。余命のことだって、忘れてしまいそうになるぐらい、体調は良かった。でも、油断はできない。ある時、急に症状が出るかもしれないと、覚悟だけはしておかないとな。
部屋はいつでも整理整頓を心掛け、荷物も最低限、増やさないようにしていた。
私がいなくなっても、後片付けで苦労しないように。
座り心地のよいソファにお気に入りのベッドカバー、私だけの空間だ。
紅茶のカップを手に、窓辺にそっと立つ。
私はここから見える景色を一生、忘れないだろう。
朝食後、畑仕事をしていると、馬の蹄の音が聞こえた。
もうテオドールの所へ行く時間? いつもより、迎えが早いような気がする。
顔を上げると視界に入った馬車に眉をひそめた。
あの紋章は――!!
全身が強張るが、ひるんでいられない。私はグッと唇を嚙みしめる。
やがてゆっくりと馬車が止まり、扉が開いた。姿を現した人物を見た瞬間、顔をゆがめた。
「レオナ、なにしに来たの」
まったく歓迎しない訪問者、それは妹だった。
「なにもない田舎。退屈なところね」
そう言って肩をすくめるレオナは、目的がなければ来ないはずだ。
「どうしてここがわかったの」
こうなることを恐れて、誰にも告げずに来たのに。
「お姉さまの生みの母親の持ち家って、ここしかないじゃない。まさか本当にこんな場所にいるとは、思わなかったわ」
そういうとレオナは私の頭のてっぺんから足のつま先まで、ジロジロと不躾な視線を送る。
「ちょっと、お姉さま……」
レオナはいきなり私の腕をガッとつかんだ。
「髪もツヤツヤだし、肌もしっとりして……やだ、そばかすが消えているじゃない!」
レオナは私の変化に悲鳴を上げる。
ここでの生活は私に潤いを与えてくれる。ストレスのない生活は髪にも肌にもいい。それに、元からそばかすはなかったわ。描いていただけだから。
「どういった変化なの? いつものお姉さまらしくないわ」
私のストレスの元凶のあなたがよく言うわ。
だが、ここで言い争いをするつもりはない。無駄だと気づいている。
「それで、早く用件を言ってくれないかしら?」
あなたに構っている時間がもったいない。
つかまれた手を振り払い、強気に出るとレオナは唇を噛みしめた。
「そんなことより、中に入れてくれないの? 喉が渇いたわ」
「無理よ。話ならここで聞くわ。手短に話して」
私の癒しの空間にレオナを一歩でも入れるものか。
強気な態度を崩さずに対峙すると、レオナの顔が引きった。
「じゃあ、単刀直入に言うわ。お姉さまのせいで、屋敷内はめちゃめちゃなんだから!!」
「私のせいですって。なぜ?」
「領地を途中で放り出していくなんて、無責任だと思わないの? 屋敷の管理もそうよ! お姉さまばかり好き勝手して!」
呆れた……。
それはもとから両親の仕事だ。今までは私に押し付けていただけ。本来仕事をするべき人がさぼっているのだと、なぜわからないのだろう。
「それは元より、私の仕事じゃないわ。家にいた時は手伝っていただけよ」
冷静に諭そうとするがレオナは目をつり上げた。
鏡台の引き出しに入っている鏡を見れば、今日も元気にミミリーが蠢いていた。
「いつか呪い主に還してあげたいわ」
それまでは鏡の中で大人しくしていてね。
私は折りたたみ式のコンパクトをそっと閉じると、引き出しの中にしまった。
それから収穫した野菜を洗い、朝食の準備をする。大量の野菜を煮込んだスープに焼き立てのパンは、バターの香りが食欲をそそる。半熟でトロッとした卵に舌鼓を打つ。
窓を開けると見えるのは、私が育てた野菜と薬草たち。
心地よい風と太陽の光が入り込む。
ああ、私、今が一番幸せな時なのかもしれない――。
紅茶の香りを楽しみながら、朝食を味わった。
ここ最近では胸の痛みもすっかり消えた。余命のことだって、忘れてしまいそうになるぐらい、体調は良かった。でも、油断はできない。ある時、急に症状が出るかもしれないと、覚悟だけはしておかないとな。
部屋はいつでも整理整頓を心掛け、荷物も最低限、増やさないようにしていた。
私がいなくなっても、後片付けで苦労しないように。
座り心地のよいソファにお気に入りのベッドカバー、私だけの空間だ。
紅茶のカップを手に、窓辺にそっと立つ。
私はここから見える景色を一生、忘れないだろう。
朝食後、畑仕事をしていると、馬の蹄の音が聞こえた。
もうテオドールの所へ行く時間? いつもより、迎えが早いような気がする。
顔を上げると視界に入った馬車に眉をひそめた。
あの紋章は――!!
全身が強張るが、ひるんでいられない。私はグッと唇を嚙みしめる。
やがてゆっくりと馬車が止まり、扉が開いた。姿を現した人物を見た瞬間、顔をゆがめた。
「レオナ、なにしに来たの」
まったく歓迎しない訪問者、それは妹だった。
「なにもない田舎。退屈なところね」
そう言って肩をすくめるレオナは、目的がなければ来ないはずだ。
「どうしてここがわかったの」
こうなることを恐れて、誰にも告げずに来たのに。
「お姉さまの生みの母親の持ち家って、ここしかないじゃない。まさか本当にこんな場所にいるとは、思わなかったわ」
そういうとレオナは私の頭のてっぺんから足のつま先まで、ジロジロと不躾な視線を送る。
「ちょっと、お姉さま……」
レオナはいきなり私の腕をガッとつかんだ。
「髪もツヤツヤだし、肌もしっとりして……やだ、そばかすが消えているじゃない!」
レオナは私の変化に悲鳴を上げる。
ここでの生活は私に潤いを与えてくれる。ストレスのない生活は髪にも肌にもいい。それに、元からそばかすはなかったわ。描いていただけだから。
「どういった変化なの? いつものお姉さまらしくないわ」
私のストレスの元凶のあなたがよく言うわ。
だが、ここで言い争いをするつもりはない。無駄だと気づいている。
「それで、早く用件を言ってくれないかしら?」
あなたに構っている時間がもったいない。
つかまれた手を振り払い、強気に出るとレオナは唇を噛みしめた。
「そんなことより、中に入れてくれないの? 喉が渇いたわ」
「無理よ。話ならここで聞くわ。手短に話して」
私の癒しの空間にレオナを一歩でも入れるものか。
強気な態度を崩さずに対峙すると、レオナの顔が引きった。
「じゃあ、単刀直入に言うわ。お姉さまのせいで、屋敷内はめちゃめちゃなんだから!!」
「私のせいですって。なぜ?」
「領地を途中で放り出していくなんて、無責任だと思わないの? 屋敷の管理もそうよ! お姉さまばかり好き勝手して!」
呆れた……。
それはもとから両親の仕事だ。今までは私に押し付けていただけ。本来仕事をするべき人がさぼっているのだと、なぜわからないのだろう。
「それは元より、私の仕事じゃないわ。家にいた時は手伝っていただけよ」
冷静に諭そうとするがレオナは目をつり上げた。
