【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

 そして案内されたのは、アレク様の私室だった。
 モノトーンを基調とした落ち着いた雰囲気だ。万が一、テオドールに聞かれたら悪いから、私を連れてきたのだろう。アレク様は私が話し出すのを辛抱強く待った。

「実は――テオドールの症状が呪いかもしれないと思って……」

 ええい、迷っていても仕方ない。直球で告げるとアレク様が目を見開いた。

「呪いは闇の魔力から生み出されます。だからこれが本当に呪いなら、主がいるはずです」

 そりゃ、呪われているということは、誰かに嫌われている、もしくは排除したいと思われているという意味だろうから、不快になって当然だ。

 アレク様は息を小さく吐き出すと続きを促したので、私は自分が思ったことや、感じたことをすべて話した。

 どうしよう、こんな失礼な話、気を悪くするだろう
 やがてアレク様はため息をつくと、髪をかき上げた。

「呪い、か……」

 もしかして信じてくれるの?
 真っ向から否定しない様子はもしかして、心当たりがあるのだろうか。

「それで治療についてなのですが、マルジェの村から南東へ進んだ先に、ルミナの森があります。その奥に広がる湖のほとりに咲く――セレフィアという花が必要なのです」

 ルミナの森の奥深くには、大きな湖があると隣の奥さんから聞いていた。彼女の旦那さんが狩りに出かけた際、湖のほとりに咲く大群の青い花を見たと言っていた。その花の花弁は一枚だけ白く、珍しかったそうだ。

 その特徴から、清らかな水の流れる場所に咲く、貴重なセレフィアの花かもしれないと思った。
 テオドールから借りた薬草図鑑にも載っていた。私の勘が正しければ、きっとそこにセレフィアの花があるはずだ。

「セレフィアの蜜を飲ませて直接魔力を流し込めば、解呪は可能かもしれません」
「治療できるのか?」

 彼の声は低く、真剣だった。

「はい、試してみるだけの価値はあると思います」
「そうか。では明日出発しよう」
「え……」

 口を開けてポカンとしてしまう。

「まさか、君一人で行くつもりだったのか?」
「は、はい」

 だって、私が勝手に呪いだと思っただけで、決定じゃない。試してみる価値があると思ったけれど、無駄足になるかもしれないし、わからない。それならば一人でルミナの森へ行き、セレフィアの花を取ってこようと思っていた。
 アレク様は額に手を当て、深くため息をついた。

「危ないだろう」

 私の身を案じる言葉に目を見開いた。家族の誰からもそんな優しい言葉をかけてもらった記憶がない。日頃から、そんな扱いに慣れていた私は、それが普通だと思い込んでいたみたい。
 他人であるアレク様が、私を心配してくれることに戸惑いを覚えた。

「君はもっと人を頼ってもいいんだ」

 ポンと頭に置かれた手が温かくて、胸がいっぱいになる。

「それに俺の弟のことだ。兄の俺が行かないで誰が行くんだ」

 フッと笑うアレク様の笑顔に心臓がドクンと音をたてた。