【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

 私の暮らすエルバーハ国は魔力持ちの魔術師が優遇されている世界だ。

 魔術師になれるのは、その身に宿した魔力の大きさで決まる。魔力持ちは数万人に一人と、かなり稀なことらしい。

 私はリディア・ノクティス。
 ノクティス侯爵家の長女として生まれ、十八歳だ。

 ノクティス家の血筋には、強力な魔力が宿ると言われている。何代かにわたり王宮魔術師を多く輩出している魔力の名門。

 そんな中で私は――。

「リディア! いつまでも遊んでいないで、早く書類をまとめてしまいなさい!」
「はい、お義母さま」

 やれやれ。屋敷内の掃除がひと段落ついて、ようやく部屋でゆっくりできると思ったら、そうはいかないのね。

 部屋まで押しかけてきた義母に、山のような仕事を押し付けられるのが日課となっている。
 私は読みかけの本をそっと閉じた。

「まったく、お前はすぐさぼろうとする。ちょっと目を離すとこれだもの。本ばかり読んで!」

 大げさなため息をつき、私を頭ごなしにガミガミと叱る義母。

 私が八歳の時に母は流行り病で亡くなった。父は喪が明けるとすぐに再婚した。
 そして私には一つ下の妹ができ、初めて会った時は衝撃を受けた。

 金の髪には天使の輪が輝き、青い瞳は空のように澄んでいた。とてもかわいらしい顔をしていると同時に、どこか自分に似ていると思った。

 その後、メイドたちの噂話から妹、レオナは半分自分と血が繋がっていると知った。つまり、父の愛人の子だったというわけだ。父は母が生きていた時から義母と付き合っていたらしい。

 よくやるわ、父も。

 もとより母と父は政略結婚で、愛情は冷え切っており、仲良く会話しているのを見たことがない。父は屋敷にはあまり戻らず、不在の日々が多かった。今思えば義母のもとにいたのかもしれない。

 けど父が不在でも、私はちっともさびしいと思ったことはなかった。
 なぜなら、母がいたから。

 夫婦仲は冷え切ってはいたが、母は私にたくさんの愛情を与えてくれた。貴族にしては珍しく乳母をつけずに、自分の手で私を育ててくれた。

 眠りにつく前の絵本の読み聞かせや、優しく手を引いて一緒に回った庭園など、すべて私の中で大切な想い出となっている。

「――聞いているの、リディア!? まったく、お前はいつもぼんやりとして!!」

 母と過ごした日々に浸っていると、急に現実に引き戻される。
 どうやら義母の機嫌は悪いみたいだ。

 金切り声を上げて目をつり上げているが、どうせ私への八つ当たりだろう。いつものことだが、面倒くさいことだ。

 私は小さく息を吐き出すと、スッと顔を上げた。

「申し訳ありません、お義母さま」

 そのままペコリと頭を下げる。

「本当に謝罪だけは一人前な声を出すんだから」

 義母の声のトーンが一段下がったので、少しは落ち着いたのだろう。

 もっとも、なんに怒っていたのかは、不明だけれど。

 義母はなにか面白くないことがあると、わざわざ私のもとまでやってきて、大声でまくしたてるのが日常茶飯事だ。この屋敷のメイドたちも私が標的になれば、自分たちの身が守れると知っているので、見て見ぬふり。

 ヒステリックになった義母は、大人しく聞き流すのが一番手っ取り早い。ひとしきりわめいたあとには、少し落ち着くのだから。

 昔は私も反抗したものだ。その結果、私の態度が気に入らないといい、屋根裏に二日間閉じ込められたっけ。あれはきつかった。
 日々の労働から解放された二日間だったが、その間、本が読めなくなったのだから、暇すぎた。

 時間だけはたくさんあったので、どうせなら本と一緒に屋根裏に引きこもりたかった。だがもっと悲惨だったのは、部屋に戻った時だった。私の大事な本がビリビリに破かれて床に散らばっていた。

 それを見た時、もう今後は、逆らうのは止めようと心に誓った。反抗した方の代償が大きいと気づいたからだ。
 そんなこんなで、心にもない口先だけの謝罪を義母にすると、ようやく怒りが収まったようだ。

「早くしなさい、書類がたまっているのだから、今日中に片づけること!」
「はい」

 その書類も、本来は侯爵夫人であるあなたがやるべきでは?

 思うだけで口には出さないけれど。私の大事な本を破かれては困る。

「お母さま、なにをやっていらっしゃるの?」

 その時、無邪気な声と共に扉から顔を出したのは妹だった。

 面倒なのが一人増えた……!!

「あら、レオナ。お勉強はもう終わったの?」

 レオナの顔を見た義母の声のトーンは変わり、コロッと上機嫌な声を出す。

「ええ、家庭教師も褒めていたわ、最近では授業中に寝ることもなくなったし、ちゃんと話を聞いてるって!」

 それ、普通だから。

 得意げに胸を張るレオナだが、どれだけ普段の授業態度が悪いのか、察する台詞だ。

「まあ、その調子よ、レオナ。ノクティス家はお前にかかっているのだから!」
「任せて、お母さま。私が王宮魔術師に任命される日も近いから!」

 義母がレオナの肩を叩いて激励すると、自信に満ちあふれた態度を見せる。
 レオナは九歳で魔力に目覚め、それ以来、ずっと周囲からチヤホヤされて甘やかされてきた。

 その結果――。

「あら、お姉さま、まだいたの?」

 いるに決まっているわ、私の部屋だもの。

「早く仕事に行ったら? お姉さまができることなんて、限られているんだし」

 レオナは口に手を当て、瞳を意地悪くゆがめた。