【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

 心配しながらも、いつものように屋敷の調理場へ繋がる裏口に顔を出す。ふと、屋敷内が慌ただしい雰囲気に包まれていることに気づいた。いつもはもっと落ち着いているのに。

「すみません、野菜を持ってきました」

 メイドの一人に声をかけると、どうやら客人が来ているらしい。ああ、そのせいか。
 邪魔になる前に帰ろうとしたところで、引き止められた。なんでもコンラッドさんから話があるらしい。
 しばらくその場で待つと、コンラッドさんが姿を現す。

「リディア、良かった。君が来るのを待っていたんだ」
「すみません。最近、別件で忙しくて、野菜を持ってくるのが遅くなってしまいました」

 謝罪するとコンラッドさんはそうじゃない、と言わんばかりに大きく首を横に振った。

「テオドール様のご家族の方が面会にいらしているのだが、リディア、君に会いたいそうだ」
「私にですか?」

 不思議に思い、首を傾げる。

「ああ。今から案内するから。それと、くれぐれも失礼のないようにお願いしたい」

 コンラッドさんから念を押されるが、そこまで気を遣う相手って誰なのかしら?

 でも任せて欲しい、そこは腐っても侯爵令嬢。絶縁された身だけど、最低限の礼儀作法は身についている。
 コンラッドさんの後ろをついて行き、到着したのはテオドールの部屋の前だった。
 コンラッドさんは息を深く吸うと、扉をノックする。くぐもった返事が聞こえ、コンラッドさんは扉に手をかけた。しっかりするんだぞ、と強い視線を受け、部屋に一歩踏み出した。

 大きなベッドで上半身を起こしていたテオドールは私を見ると笑顔になる。

「リディア!」

 大きな声に私も微笑む。

 その時、ベッド脇の椅子に座っていた人物に気づく。ゆっくりと振り返った男性、その端正な顔立ちに目を奪われた。

 金糸のように輝く髪に、碧眼はまるで澄み切った湖のように深い。そのたたずまいには自然と視線を引き寄せる気品があった
 まるで絵画から抜け出してきたような完璧な容姿。高貴な雰囲気を身にまといながらも、どこか近寄りがたい冷静さと、鋭い知性がその瞳に宿っている。

 家族ってテオドールのお兄さまだったの? 確かによく似ているわ。
 しばし見つめ合うと、男性が立ちあがった。その動きはしなやかで無駄がなく、まるで騎士のような洗練された所作だった。そこにいるだけで彼に引き寄せられるような、圧倒的な存在感。

 彼の視線が再びこちらに向けられた瞬間、胸の奥が静かに震えた。
 そこでハッと気づく。

 最低限の礼儀は身についているなんて思っておきながら、全然だめじゃない。
 慌てて頭を下げる。

「はじめまして。そしてテオドール様と仲良くさせていただいております、リディアと申します。この屋敷に野菜を卸しております」
 ゆっくりと顔を上げ、にっこり微笑んで相手を見つめる。

 うわぁ、すごくかっこいい。

 スッと伸びた鼻筋に意志の強そうな瞳の輝き。それに見上げるぐらい背も高くて、細身だけど筋肉質で手足も長い。
 シャツにラフな服装だけど生地は上等だと思う。もしやテオドールって、私が思っているより、ずっと高位貴族なのかしら――?

「君がリディアか」

 考えごとをしていると低い声がかかる。

「お兄さま、リディアはすごいんだ! リディアの持ってくる野菜は不思議と美味しい! それになんでも良く知っているんだ」

 お兄さまと呼ばれた男性の声を遮り、興奮気味に語るテオドール。

「弟が世話になっているようだ」

 目の前にスッと出された手は節々が硬そうで、剣を持つ手だと感じだ。

「俺のことはアレクと呼んで欲しい」

 フルネームを名乗らないところを見ると、どうやら身分を明かす気はないようだ。

 まあ、私も人の事は言えないけどね。微笑みながらその手を取ると、ギュッと強く握られた。