【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

 今のは……?

 初めての感触に戸惑う。例えるなら、すごく苦手なものに手をつかまれたような感覚だった。全身がスッと冷え、心臓がドクドクと音を出した。

 とても嫌な感覚、気のせいだとは思えない。

 ――もしかしたら、ただの病気ではないかもしれない。

 直感的に頭に浮かんだが、簡単に口に出すべきではない。

「汗をかいたかもしれないから、ちょっと背中を見せてね」

 ゴクリと喉を鳴らし、テオドールのシャツをまくり上げる。

 これは――なに?

 背中の中央に黒いあざがあった。それはまるで蛇のような形状をしていた。

「背中をふくわね」

 持っていたハンカチであざに触れる。

 え……⁉

 心なしか、あざが動いたような気がした。

「くすぐったいよ、リディア」

 テオドールがコロコロと笑い出したので、そこで手を止める。
 私はベッド脇のチェストに置いてあったグラスに水を注ぎいれる。

「まずは、お水を飲みましょう。顔も赤いから」
「うん」

 テオドールにグラスを渡すと大人しく飲み干した。
 その後、しばらく会話をし、テオドールに別れを告げる。彼はしぶったが、あまり無理をさせてはいけない。
 また来ることを約束して、その日は退室した。

 家に帰り畑仕事を終え、簡単な夕食を食べる。
 静かなこの時間は、私だけのものだ。

 外から聞こえてくる虫の音色を聞きながら、本を片手に調べ始めた。
 テオドールの症状について、どこかに書かれていないかしら?

 ノクティス家を出る時、本を何冊か持ってきたが、ありがたいことにこの一軒家にも本棚があり、何冊も置かれていた。すべて私が好む内容、主に魔力についての本だった。
 母も私と同じように、本から学んでいたのかな? そう思うと嬉しかった。
 テーブルに何冊も本を広げ、真剣に読み漁る。

「咳に効果があるゼラニムの葉、そして胸の炎症を抑えるキオロの葉を煮詰める。そして満月の夜に泉から汲んだ月光水を混ぜると、癒しのしずくのできあがり! さらに効果を高めるには――」

 ソファを少し横にずらすと、広くなった床。そこにチョークを片手に魔法陣を描く。

 大丈夫、きっとうまくいくはず。

 すべて独学だけど理論上は間違いないはずよ。魔法陣だってノクティス家にいた時、何度も書くのを練習したわ。それこそ、本も見ないで書けるようになった。

 やがて魔法陣が完成し、胸をなでおろす。だが、ここで安堵してはいけない。
 小瓶につめた癒しのしずくを魔法陣の中心に置く。

「――さあ、いくわよ」

 深く息を吸い込むと共に、意識を集中させる。
 心臓からゆっくりと全身に流れる魔力を想像し、耳を澄ませる。