【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~

 朝食を食べ終えると、私は作った癒しのしずくをカゴにいれて、家から出発した。

 家から少し離れた場所に教会がある。ここは身寄りのない子や、病気になった人たちの療養施設となっていた。
 広々とした川が施設のすぐそばを流れ、川沿いには木々が連なっている。澄んだ空気と豊かな自然に包まれた場所だ。施設ができた日に植えられたという樹齢八十年の一本の大木。太い幹に根は深く、枝葉は空に向かって堂々と広がっている。季節ごとに姿を変えながら、静かに施設を見守っているので、施設の守り木として崇められていた。

 皆が余った野菜を差し入れしたり、近隣の住民で手助けをしている。人々の善意で運営され、その空気に触れるのが心地良かった。
 私も時折、ここへ出向いてお手伝いをしている。時には体調の悪い子の看病を手伝った。

「いつもありがとう、リディア」

 私に声をかけてくるのは物腰柔らかなシスターたち。

「とんでもありません。私でお役に立てるのなら」

 シスターは優しく微笑む。

「ここは病気を患ってしまい、家庭で看病が困難な子供を一時的にお預かりしているの。家では家族が多くてゆっくりと休めなかったり、経済的な事情とかもあるからね。ここでは治療に専念して元気になって欲しいと願っているのよ」

 この施設も決して楽ではないが、困っている人がいたら受け入れる方針だそうだ。

「さびしい思いをしている子供もいるわ。夜になるとすすり泣く声が聞こえてくるから」

 まだ幼い子供も多いので、さみしくて当然だと感じる。

「本当は早く良くなって家に帰れるのが一番なんだけどね。そのためには空気の良いここで、ゆっくり過ごして欲しいわ」
「治療する薬はあるのですか?」

 シスターは目を閉じると、静かに首を横に振る。

「まず体をゆっくり休めてもらい、あとは民間療法よ。ポーションなどの薬は珍しく貴重な物だし、私たちにはとてもとても……」

 たいがいの病気は毎日ポーションを飲めば回復すると言われていた。ただ、ポーション自体が手に入れることは困難だ。
 母が流行り病になった時、ポーションを飲めば完治していたかもしれない。今思うと悔やまれるが、当時の私にポーションを手に入れる術はなかった。

 だからこそ私はポーションとまではいかなくても、癒しのしずくを作り始めた。
 生前、元気な頃の母に連れられて、療養施設を訪ねていたことがある。母もまた、人の世話をするのが好きだった。本当なら人を救う仕事をしたかったと、ぽつりともらしたこともあったぐらいだ。

 母は望まぬ結婚を強いられたが、私が生まれなかったら、もっと自由に生きていたんじゃないのかと思うこともある。

「ポーションは手に入らなくても、ここには子供の笑顔を守りたいと願う、人々の善意が集まってきます。リディアさんの作る『癒しのしずく』も評判がいいんですよ。胸の動悸がおさまってきた、という子もいてね」
「本当ですか?」

 独学で学んで作り始めたけど、誰かに役立つと思うと嬉しくなる。

「ただちょっと、苦いのと独特の匂いがあるから、小さい子に飲ませるのは苦労するわ。この前はフローラとジェフリーが飲みたくないと駄々をこねてしまって。ジェフリーなんて裸足で外に逃げ出したんだから」

 そこまで拒否できるなんて、充分元気なんじゃないかしら?

 シスターと顔を見合わせて笑った。

 シスターと別れ、施設の廊下を歩いていると、窓の外から子供の声が聞こえる。

 天気の良い日は少しでも外に出るようにするのが、施設の方針だ。風に乗って聞こえてくる子供の声は癒される。

「あ、リディア姉ちゃん」

 背後から名前を呼ばれて振り返ると、そこにいたのはシリルだった。シリルは今年九歳で、三か月前からここにいて、私になついている。

「あなたは外へ行かないの?」
「行きたいんだけど、今日は熱っぽいからダメだって」

 確かに赤い顔をして瞳は潤んでいる。最初は部屋で大人しくしていたけど、外から聞こえてくる楽しそうな声に我慢できず、様子を見に来たのだろう。

 シリルはゴホゴホと咳き込み始めた。苦しそう顔を見ていると辛い。
 私はたまらず、シリルの背中をそっとさすった。
 シリルは呼吸器系が弱くて、すぐ熱を出してしまう。

 早く、良くなりますように――。

 願いを込めたせいだろうか、体の奥からみなぎるなにかを感じた。