この恋に名前をつけるとするならば


開場時間が近付くと、少しずつ前へと進んで行く長蛇の列。

「めっちゃ楽しみだねぇ!」
「ねっ!早くInochiくんの美声と神過ぎる顔面を拝みたい!」
「今回の曲もInochiくんが作詞作曲したんだってぇ〜!」
「やっぱInochiくんしか勝たん!」
「あたしはいっくん派かなぁ〜!」

周りにから聞こえてくる会話は、当然だがメンバーの話題ばかり。

(お母さんも言ってたけど、その"Inochiくん"って人が人気なんだなぁ。"いのち"って凄い名前。)

それからも徐々に前へと進み、ライブハウスの中へと入る。
中は想像していたよりも広く、何ともバンドらしいその雰囲気に自分が場違いな気がしてきてしまった。

(わたしは別にそんな前で見なくていいから、上の段に上がっちゃお。)

わたしは一段上に上ると、その一番右寄りのところで見る事にした。

熱狂的なファンたちは、前へ前へと場所を移動して行く。
一方、わたしは肩身が狭い思いで壁へ壁へと寄って行く。

(別にファンでもないわたしが居る事が、何だか申し訳なく思ってきた···)

そうしていると、パッと突然会場が暗くなり、周りからは歓声が上がった。

ステージにはスモークが上がり、微かに照らされているバックライトがステージ脇から歩いて来る4人の姿を映し出す。

4人の姿に更に高まる歓声。

そして、ドラムの音をきっかけに一気にステージがライトアップされ、メンバーが姿を現し、曲が始まった。
その瞬間、地面が揺れ出し、周りの人たちがメンバーの名前を叫び出す。

(凄い···)

周りの熱量に圧倒されたわたしは、そこで初めて"Ash Regal"の姿をハッキリと目にする。

すると、わたしはある事に気付いた。

(えっ?あの真ん中のボーカルの人······)

サラサラの黒髪に少し遠目からでも分かる程の美形な顔立ち。
それから、クロブチ眼鏡。

「こんばんはー!アッシュリーガルです!今日は楽しんで行ってください!」

マイクを通しているが、聞き覚えのあるその声にわたしはハッとした。

(えっ、あれって······――――)

ステージの中央でベースを弾きながら歌い始めたそのイケメンは、いつも集荷に来てくれる白猫運輸の蔵間さんだったのだ。