「事務員さん、もしかして、このアパートに住んでるんですか?」
蔵間さんの問いにわたしはすぐ傍の扉を指差した。
すると、蔵間さんは扉の方を見ると「あ!202号室の凪原さんですか?」と言い、わたしは「はい。」と頷いた。
「じゃあ、丁度良かったです!お届け物です。」
そう言って、蔵間さんは脇に抱えていた小さな箱をわたしに差し出した。
「ありがとうございます。」
わたしがその箱を受け取ると、蔵間さんは箱の上に貼ってある伝票を見て「CD注文されてたんですか?」と訊いてきた。
「あ、あぁ、これは母のだと思います。先日、注文しておいて欲しいって頼まれていて。」
「そうだったんですね。」
「インディーズバンドのCDなんですけど、ネットでしか販売されなかったみたいで。」
「お母様がインディーズバンドの曲聴くんですか?」
「はい、母の中での今イチオシのバンドらしくて。"アッシュリーガル"とかっていうバンドらしいです。」
わたしがそう言うと、蔵間さんは一瞬驚いたような表情を浮かべた。
そして、それから「そうなんですね。」と何事も無かったような表情に戻ると、「それじゃあ、今ご迷惑をおかけしてしまったお詫びに、これ受け取ってください。」と言い、仕事着の内ポケットから何かを取り出し、わたしに差し出した。
「え?いえ、そんなお詫びだなんて!」
「いいえ、受け取ってください!それじゃあ、俺はまだ仕事あるんで。お疲れ様でした!」
蔵間さんはそう言い、わたしが手に持つ箱の上に、その"何か"を置くと、キャップ帽子を被り直して行ってしまった。
階段を駆け下り、足早にトラックに乗り込んで、トラックの中からこちらに向かい頭を下げると、トラックを発進させ、去って行った蔵間さん。
わたしは蔵間さんが乗るトラックを見送った後、蔵間さんが置いて行ったその"何か"に視線を向けた。
それは細長い茶封筒で中に何かが入っているようだった。
わたしはとりあえず自宅の鍵を開け、中に入ってから茶封筒の中身を確認してみた。
すると、茶封筒から出てきたのは、"Ash Regal シングル発売記念LIVE"と書かれたライブチケットだったのだ。



