この恋に名前をつけるとするならば


わたしが何が何だかよく分からずに困惑していると、郁人さんは「それ、どうしたんですか?」と落ち着いた様子でわたしに訊いてきた。

「あ、これ、ですか?」

わたしはそう言い、手に持った白い犬のマスコットを見せた。

「はい。それ、うちのバンドのマスコットキャラクターで、"ロック"って名前なんです。命が前に飼っていたホワイトシェパードの"ロック"がモデルになってて。」

親切にそう説明してくれた郁人さん。
その横では相変わらず、眉間にシワを寄せ、腕を組みながらわたしを睨む芽衣さんの姿があった。

「"ロック"のマスコットは普通にネット販売はされてたんですけど、でも実は、君が持ってるその"ロック"は、メンバーだけしか持っていない特別なものなんです。」
「えっ···そうなんですか?!」
「その"ロック"が着ているTシャツの色。黒はメンバーだけしか持ってない、販売されてない色なんですよ。それから、Tシャツには個人の名前が書いてある。その"ロック"のTシャツに"INOCHI"って書かれてませんか?」

わたしは白い犬"ロック"が着るTシャツを確認した。
さっきも見たけれど、やはりそこには"INOCHI"と書かれていた。

「書いてます···。」

わたしがそう返事をすると、芽衣さんは「どうせ、あんたが無理矢理欲しがったんでしょ?!」と言ったが、わたしは慌てて「違います!」と否定をした。

「命さんが···わたしにくれた物らしいです。」
「らしい?」
「実は、わたしが働いてる職場に、毎日命さんが集荷に来てくれてたんです。でも、突然来なくなってしまって······。そしたら、命さんの代わりにきた方が『蔵間から渡して欲しいって頼まれた』って、これを渡されて。」

わたしがそう説明すると、郁人さんは穏やかな表情で「なるほどね。」と呟いた。