この恋に名前をつけるとするならば


その日の仕事終わり、わたしはそのまま真っ直ぐ帰宅する気にはなれず、ぼんやりとしながらトボトボと、どこかへ行く目的もなく歩いていた。

わたしの手には、白い犬のマスコット。

(命くんは、どうしてこれをわたしに?もう会えないから、記念に残してくれたの?)

そんな事を考えながら歩いていると、すれ違った人と肩がぶつかってしまい、わたしは慌てて振り向くと「あ!ごめんなさい!」と謝った。

すると、ぶつかったのは若い女性で、しかも···――――

「あ!あぁ!あんた!」

その女性はわたしを指差し、そう行って睨みつけてきたのだ。

「あっ···、芽衣さん、ですよね?」

何とわたしと肩がぶつかった相手は、"アッシュリーガル"のキーボードの芽衣さんだったのだ。

「ちょっと、気安く名前で呼ばないでくれない?」

(やっぱりわたし、めちゃくちゃ嫌われてる···)

不機嫌そうにわたしを睨み付ける芽衣さん。
すると、その横には「芽衣、失礼だろ。お前もぶつかったんだから、まず謝れ。」と芽衣さんを静かに注意する人物が居た。

「すいません、うちの妹が大変失礼しました。」

そう言って、芽衣さんの頭を押し付け、強制的に謝らせようとしていたのは、"アッシュリーガル"のリーダーでギターの郁人さんだった。

「あ、いえ、ぼんやりとしながら歩いていた、わたしが悪いので···本当に申し訳ありません。」

わたしがそう言って頭を下げると、芽衣さんは「ふんっ」と言いながら、胸の前で腕を組んだ。
と思えば、芽衣さんの視線がわたしの手元に移り、芽衣さんは大きく目を見開くと「それ!どうしてあんたが持ってるのよ!!!」と叫んだ。

「えっ?」
「それ!"ロック"のマスコット!それ命のやつでしょ?!」

わたしが持つ白い犬のマスコットを指差し、騒ぎ出す芽衣さん。
そんな芽衣さんを「お前、ちょっと声デカ過ぎだ!」と抑えようとする郁人さんは、通行人の邪魔にならないように道の端の方へと引っ張って行った。