「実は···、蔵間のやつ、結構有名人だったらしくて。俺は全然知らなかったんですけど。いつもキャップ深く被って、あまり顔バレしないように気を付けてたらしんですけど、ついに熱狂的なファンにバレちゃったらしくて···」
その話を聞き、わたしは息が詰まりそうになった。
「そしたら、あっという間にその話がネットに拡散されちゃって、会社が電話の嵐で大変だったんすよ。だから、突然なんですけど辞める形になって。でもあいつ、そんな有名人だったなら、何でうちの会社で働き続けてたんですかね。」
命くんが、白猫運輸を辞めた。
ファンの人にバレてしまったから···――――
"俺と二度目のデートしてくれませんか?"――――
まだ、何も決まってないのに······
今週会ったら、話すつもりだったのに······
命くんの連絡先も知らない。
わたしは、もう···命くんに会えない?――――
「あ、それで俺、蔵間からとり丸の事務員さんに"渡してほしい"って、頼まれてたものがあって。」
「えっ?」
「凪原さん、で間違いないですか?」
「はい、凪原です!」
すると駒場さんは、腰に下げた黒いポーチを開け、中から"ある物"を取り出し、それをわたしに差し出した。
「えっ···、これ······」
「蔵間が凪原さんにって。」
駒場さんが命くんから預かっていた、わたしへ渡したかったものとは、ライブの時にファンの人たちがリュックに着けていた"Ash Regal"のマスコットキャラクターである白い犬の手のひらサイズのマスコットキーホルダーだった。
わたしは駒場さんからそれを受け取ると、そのマスコットを見つめた。
キャップ帽子を被る白い犬が着た黒色のTシャツには、白色のロゴで"INOCHI"と書かれていたのだった。



