この恋に名前をつけるとするならば


定時の17時半になると、わたしは窓の鍵が締まっているかを確認し、書類関係を棚に戻して、バッグを持って事務所内のカウンターに置いてある機械にタイムカードを通した。

それから事務所を出ると、ドアに鍵を締めて、このビルの8階からエレベーターで一階まで下りて行く。

(今日のご飯どうしようかなぁ。食べて帰っちゃおうかな。)

そう思いながら、オレンジに染まり始める空の下を歩く。

わたしは職場と自宅の中間地点にある牛丼屋に立ち寄ると、カウンター席で一人、おろし牛丼を注文した。

(女一人で牛丼屋って、端から見れば寂しそうに見えるかなぁ。)

もう少し若い頃は、確かに一人で牛丼屋なんて虚しくて入れなかった。
しかし、慣れというものは恐ろしいもので、今では何とも思わない。

「はい、牛丼のおろしでぇす。」

店員さんが運んで来てくれた丼ぶりを受け取り「ありがとうございます。」と言うと、わたしは手を合わせ「いただきます。」と割り箸を割って、牛丼を食べ始めた。


牛丼を食べ終え、牛丼屋を後にすると、既に空は薄暗くなっていた。
しかし、都会の空に星は見えない。
月も何だか霞んで見えるような気がした。

職場から自宅までは徒歩で通える距離にあり、駅近だというのに家賃はそれほど高くはなく、最初は(もしかして、事故物件?)なんて疑ってしまったくらいだ。

まぁ、怪奇現象もないし、単に築年数が長いからなのかもしれないが、リノベーションはされており、気になるほど古さを感じない為、わたしは他に引っ越すつもりは今のところはない。

すると、自宅アパートに近付いたところで、アパート前に白猫運輸のトラックが停まっている事に気付く。

そして徐々に近付いて行ってみると、アパートの2階···、それも丁度わたしの部屋の202号室前で不審な動きをしている人物が目に入ってきた。