この恋に名前をつけるとするならば



あの日の土曜日から、わたしの頭の中には、完全に命くんが棲み着いていた。

(こんなに誰かにトキメクのなんて、いつぶりだろ······)

わたしのこれまでの恋愛は、"恋愛"と呼んで良いものなのか危うい程、浅く脆いものばかりだった。

付き合っては浮気をされて別れたり、二股をかけられてたり、実は既婚者である事を隠されていたり、お金を取られて逃げられたり···――――

(よく考えたら、わたしって男運悪過ぎない?)

誰か一人に愛されてみたい。
でも、それがこんなに難しい事だなんて思わなかった。

わたしは、きっと恋愛に向いていないのかもしれない。

「はぁ······」
「どうしたんすか?そんな大きな溜め息ついて。」

その声にハッとし、横を振り向くと、そこには白猫運輸スタイルの命くんが立っていた。

「わっ!お、お疲れ様です!」
「ども、集荷に来ましたー!」

わたしは、一通の茶封筒を命くんに差し出すと「今日はこれだけです。」と言った。

「はい、お預かりしまーす!」

そう言って、茶封筒を受け取るいつもと変わらない命くん。

(こんなにドキドキしてるのがわたしだけなんて、何か悔しいな。)

「で、麗月さん。お仕事中に申し訳ないんすけど、デートいつにします?」
「えっ······」
「あれ?忘れちゃいました?」
「あー、いやぁ〜···」

命くんは被るキャップ帽子を取ると、カウンターに腕をつき、目を細めて悪戯な笑みを浮かべた。

「えっと、忘れて···ない、です。」
「良かったぁー!」
「あ、でも···、水曜日以降でもいいですか?水曜日まで勤怠修正の業務で忙しくて。」

わたしがそう言うと、命くんは爽やかに微笑み「全然オッケーっす!」と言った。

「じゃあ、その忙しそうな業務が終わったら、焼肉行きましょ!美味い焼肉屋知ってるんで!」

ウキウキしながらそう話す命くんは可愛くて、わたしまでつられて微笑んでしまう。
命くんは「じゃあ、頑張ってくださいね!俺も頑張ります!」と言って敬礼をすると、キャップ帽子を被り直して行ってしまった。

(焼肉かぁ。さて、頑張ろっ!)

わたしは気合いを入れてパソコンと向き合うと、タイムカードを切り忘れてエラーになってしまっている従業員たちの勤怠を修正していった。