この恋に名前をつけるとするならば


それから30分後、わたしは出待ちするファンの人たちの目を盗み、スタッフの人が呼んでくれたタクシーに蔵間さんと一緒に乗り込んだ。

帰るギリギリまで「命は一緒に行かなくていいじゃない!」と蔵間くんを止めながらプンプンと怒っていた芽衣さんと、「ファンにバレるなよ〜」と緩く見送ってくれた春輝さんと、煙草をふかす郁人さんに見送られたわけだが、タクシーに蔵間くんと二人きりは、さすがに気まずい。

まさか毎日、集荷に来てくれていた白猫運輸の蔵間さんが、こんなに凄い人だったなんて···――――

今更ではあるが、さっきわたしが脱水症状になりかけた時にお姫様抱っこをしてくれた時の事を思い出すと、恥ずかしさで顔から湯気が出てきそうだった。

「今日は、わざわざ来てくれて、ありがとうございました。」
「いえ···、でもまさか、蔵間さんがあんな凄い有名人だったなんて、ビックリしました。」

わたしがそう言うと、蔵間さんは「いや、俺等なんてまだまだですよ。」と謙虚に微笑んだ。

「で、どうでした?」

そう言って、顔を寄せて訊いてくる蔵間さん。

その顔の近さにわたしは反射的に顔を逸らしてしまった。

「ど、どうでしたって···」
「ライブですよ。感想は?」
「えっと、そのぉ······」

自分の横顔に刺さってくる蔵間さんの視線が気になりすぎて、なかなか言葉が出てこない。

わたしは手をモジモジさせながら、「かっ、か、か、っ······」と詰まりながらも「かっ、カッコヨカタデス。」と答えた。

すると、蔵間さんは「あはははっ!」と笑い、「凪原さん、めちゃくちゃカタコト!」と言った。

「嬉しいっす!そう言ってもらえて!」

そう言って蔵間さんが見せる満面の笑みは、完全に反則技で、わたしの心はショートしてしまいそうだった。