この恋に名前をつけるとするならば


わたしが地べたに手を付き、水を欲するゾンビ状態になると、慌てた蔵間さんはわたしをお姫様抱っこし、楽屋へと連れて行ってくれた。

そこで水分補給させてもらったわたしは、楽屋のソファーに横になり、何とも恥ずかしい事に初対面の"Ash Regal"メンバーの皆さんからの視線を浴びてしまった。

「大丈夫ですか?少し落ち着きました?」

わたしの目の前にしゃがみ込み、わたしの顔を覗き込む蔵間さん。

わたしは「はい、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」と言い、赤面する思いだった。

「命(いのち)が女を連れて来たぞ。」
「明日、槍でも降るんじゃね?」

楽屋の椅子に座りながらそう話すのは、ツンツン頭に耳にゴツいピアスをしたギターの人と、ロン毛を後ろで束ねた色白のドラムの人だ。

鏡台前の椅子に座る栗色の髪の毛を三つ編みにした、まるでお人形さんのように可愛らしい顔立ちをしたキーボードの女の子は、不満そうな表情を浮かべながら「メイでさえ、命にお姫様抱っこしてもらった事ないのに!」と愚痴を零していた。

「帰り送って行きますから。それまで休んでてください。」

優しく声を掛けてくれる蔵間さんは、そう言ってわたしの頭を優しくポンポンッと撫でてくれた。

「ちょっと命!その女に優しくしすぎじゃない?!それに帰りは一人で帰れるでしょ?!いい大人なんだからぁ!」

怒り口調でそう言うのは、キーボードの女の子。

しかし蔵間さんは、「俺の大事なお客さんなの。そんな雑に扱えるかよ。」と言って、ドラムの人が座る椅子の隣に腰を掛けた。

「何だよ、命。お前もやっと、俺を見習うようになってきたか?」

そう言って蔵間さんの肩に腕を回すドラムの人は、ニヤニヤとしながら目を細めて蔵間さんを横目で見た。

「お前と一緒にすんな!」

そう言い返す蔵間さんは、その後、隣に座るドラムの人が谷内春輝(たにうち はるき)さん、リーダーでギターの人が西野郁人(にしの いくと)さん、そしてどうやらわたしを嫌っている様子のキーボードの女の子を西野芽衣(にしの めい)さんだと紹介してくれた。

「そして最後に!白猫運輸ドライバー兼、"Ash Regal"のボーカル、ベーシストやってます!蔵間命です!」

蔵間さんは立てた親指を自分に向け、改めて自己紹介をしてくれた。