【完結】Blackberry

屋敷の焦げ跡は、まだ生々しく残っている。

壁に残る黒い染みを見るたび、
胸の奥が静かに熱くなる。

――手榴弾。

ためらいも、警告もねぇ。
完全な宣戦布告だ。

俺は会長室の椅子に座り、
集まり始めた連中の足音を聞いていた。

廊下を歩く靴音。
低い声。
張り詰めた気配。

鬼千会だけじゃない。

今日は、
**日本中の極道がここに集まっている**。

黒塗りの車が、
次々と門をくぐる。

地方の組。
系列の違う組。
過去に刃を向け合った相手もいる。

――だが今は、
同じ理由でここにいる。

外国マフィア。

日本のシマを、
“獲物”として見ている連中だ。

会議室に入ると、
視線が一斉に俺に集まった。

若い。
生意気。
女房を側に置いている会長。

そう思っている奴もいるだろう。

だが、
今の俺は一つだけだ。

鬼千会会長。

「……集まってくれて、感謝する」

俺は、
静かに口を開いた。

「今日は、
 面倒な話だ」

誰も笑わない。

「昨日、
 俺の屋敷に手榴弾が投げ込まれた」

空気が、
ぴしりと張り詰める。

「幸い、死者は出なかった」

「だが、
 次は分からねぇ」

一人、
舌打ちする音がした。

「外国マフィアだな」

誰かが言う。

「ああ」

俺は頷いた。

「連中は、
 日本の極道が弱ったと見てる」

「警察に追われ、
 世間から嫌われ、
 内輪で潰し合ってる」

「――今が、
 食い込むチャンスだとな」

ざわめき。

怒りが、
ゆっくりと広がっていくのが分かる。

「だがな」

俺は、
一拍置いた。

「日本のシマは、
 日本のもんだ」

その一言で、
空気が変わった。

「俺は、
 無駄な血は流さねぇ」

「だが、
 引く気もねぇ」

視線を、
一人ひとりに向ける。

「鬼千会は、
 前に出る」

「俺が、
 矢面に立つ」

ざわり、と
どよめきが走る。

若い俺が、
前に出る。

それが、
何を意味するか――
全員、分かっている。

「これは、
 鬼千会だけの話じゃねぇ」

「今日やられたのが俺でも、
 明日やられるのは、
 あんたらかもしれねぇ」

沈黙。

「外国マフィアに、
 日本を荒らさせるな」

低い声が、
会議室に響く。

「……ああ」

誰かが、
短く答えた。

「舐められたままじゃ、
 終われねぇな」

「鬼千会が前に出るなら、
 後ろは任せろ」

一人、
また一人。

声が重なっていく。

俺は、
その光景を見つめていた。

この連中は、
決して綺麗じゃねぇ。

だが。

自分のシマに、
責任を持つ覚悟はある。

それだけは、
信じられる。

会議が終わり、
皆が席を立つ。

最後に残ったのは、
俺だけだった。

深く息を吐く。

――重い。

だが、
逃げる気はねぇ。

廊下に出ると、
梨紗がいた。

俺を見る目は、
少しだけ心配そうだ。

「……大丈夫か」

「大丈夫だ」

俺は、
そう言って頭を撫でた。

「もう、
 引き返せねぇ」

「うん」

梨紗は、
静かに頷く。

「でもね」

「あなた、
 ちゃんと会長だったよ」

その言葉に、
胸の奥が熱くなった。

「……ああ」

日本の極道が、
一つの意思で結ばれた。

それは、
誰にも誇れないかもしれねぇ。

だが――
守るための結集だ。

次は、
話し合いだ。

それで終わればいい。

終わらなければ――
俺が、
終わらせる。