【完結】Blackberry

その夜は、
驚くほど静かだった。

ホワイト化計画③が一段落して、
屋敷に戻った私は、
久しぶりに少しだけ気が抜けていた。

「今日、みんなすごかったね」

ソファに並んで座りながら、
燐牙にそう言う。

「……ああ」

短い返事。
でも、いつもより声が柔らかい。

「田中さん、
 子どもに飴あげて泣いてたよ」

「……想像つく」

私はくすっと笑った。

その瞬間だった。

――パンッ。

乾いた音。

一瞬、
何の音か分からなかった。

次の瞬間。

**ドンッ――!!**

世界が、
ひっくり返った。

耳鳴り。
衝撃。
床が跳ね上がる。

私は、
自分が叫んだかどうかも分からない。

「伏せろ!!」

燐牙の声。

強く引き寄せられ、
床に押し倒される。

次の瞬間、
ガラスが砕け散った。

悲鳴。
怒号。
走る足音。

――爆発。

それが、
手榴弾だと理解したのは、
少し後だった。

「梨紗!」

燐牙の声が、
すぐ近くにある。

「……っ、
 ここ、いる……」

喉が、
震えて声が出ない。

体が、
勝手に震える。

「怪我は」

「……ない、
 多分……」

燐牙は、
私を抱き寄せたまま動かない。

彼の背中が、
小さく上下している。

――怒っている。

それが、
分かった。

周囲から、
部下たちの声が聞こえる。

「会長!
 南側の塀が――」

「爆発物です、
 間違いない」

「死傷者は――」

「軽傷二名!」

燐牙は、
ゆっくりと立ち上がった。

私を背中に庇ったまま。

「……ロシアか」

低い声。

誰も否定しない。

私は、
その背中を見ていた。

さっきまで、
炊き出しの話をしていた人。

その人が今、
**“会長の顔”**をしている。

「……私のせい?」

思わず、
口をついて出た。

燐牙が、
ぴたりと動きを止める。

「違う」

即答だった。

「これは、
 俺たちが“変わろうとしてる”
 ってことへの報復だ」

振り返り、
私を見る。

「お前のせいじゃねぇ」

その目は、
揺れていなかった。

でも。

私は知っている。

――私が、
“守る側”にこの組を引っ張った。

――それを、
 壊しに来た連中がいる。

胸の奥が、
きゅっと痛んだ。

「……怖い?」

燐牙が聞く。

私は、
正直に頷いた。

「……すごく」

「それでいい」

彼は、
私の頭に手を置いた。

「怖ぇって思えるうちは、
 人間だ」

「俺がいる」

その言葉で、
涙が溢れた。

遠くで、
サイレンの音が鳴り始める。

屋敷の壁には、
黒い焦げ跡。

ついさっきまであった
“日常”は、
確実に壊れていた。

でも。

私は、
逃げなかった。

燐牙の隣に立ち、
その光景を見つめる。

鬼千会ホワイト化計画。

それは、
“誰にも何もされない道”じゃない。

むしろ――
**潰しに来る奴らが現れる道**だ。

私は、
静かに息を吸った。

「……ねぇ、燐牙」

「なんだ」

「それでも、
 やめないよね」

燐牙は、
迷わず答えた。

「当たり前だ」

夜空に、
煙が立ち上る。

ここから先は、
もう戻れない。

――それでも。

私は、
この人と一緒に進む。

血の世界の中で、
白い未来を守るために。