【完結】Blackberry

炊き出し。

それは、
**鬼千会史上、最も統制が取れなかった現場**だった。

「はい皆さん、
 ここからここまでが並ぶ列です!」

私は地面にチョークで線を引いた。

「順番です。
 割り込み禁止。
 押さない、怒鳴らない、威嚇しない」

目の前には――
屈強な男たち。

全員、黒いジャンパー。
全員、腕組み。

全員、
**“並ぶ”という概念が分かっていない顔**。

「……会長の奥さん」

若衆の一人が恐る恐る言う。

「俺たち、
 並ばせる側じゃ?」

「今日は違います」

即答。

「今日は、
 “並ぶ人を守る側”です」

沈黙。

「……難易度高くないですか」

高いです。

場所は、
地震被害のあった地域の仮設住宅前。

炊き出しと、
募金活動と、
物資配布。

鬼千会の名前は伏せているが、
人手が足りない現場だった。

「いいですか」

私は声を張る。

「怖い顔は禁止」

「低い声禁止」

「“兄貴”呼び禁止」

「“オラァ”は禁止です」

「……生きづらい」

誰かが呟いた。

開始から五分。

事件は起きた。

「……あの」

小さな声。

振り返ると、
泣きそうな顔の女の子がいた。

両手に、空の容器。

「……もう、
 ごはんない?」

その瞬間。

隣にいた元武闘派・田中さん(仮名)が、
固まった。

完全にフリーズ。

「……ど、
 どうする?」

私を見る目が、
完全に助けを求めている。

「優しく、
 しゃがんで、
 目線を合わせてください」

「……しゃがむ」

田中さんが、ぎこちなく膝を折る。

地面が揺れた。

「……えっと」

声が低い。

「……お腹、
 減ったのか」

怖い。

完全に怖い。

女の子、
一歩後退。

私は即座に介入した。

「だいじょうぶだよ」

田中さんの横にしゃがむ。

「今、
 あったかいの作ってるからね」

女の子が、
こくんと頷いた。

その時。

田中さんが、
震える手でポケットを探り――

飴玉を一つ、差し出した。

「……これ、
 溶けてねぇから」

女の子が、
ぱっと笑った。

「ありがとう!」

その笑顔を見た瞬間。

田中さん、
泣いた。

「……やべぇ」

「……俺、
 人に“ありがとう”って言われたの、
 久しぶりだ……」

私は、胸がぎゅっとなった。

その後。

・募金箱を持つだけで緊張する人
・おばあちゃんに話しかけられて固まる人
・「頑張ってね」と言われて照れる人

現場は、
混乱しつつも、
確実に温度があった。

終わり際。

一人の男性が、
私に言った。

「……最初は、
 正直、怖かった」

私は身構える。

「でもな」

「今日、
 あんたらがいてくれて、
 本当に助かった」

私は、深く頭を下げた。

炊き出しが終わり、
帰りの車。

燐牙が、静かに言った。

「……どうだった」

「正直?」

「ああ」

「大成功」

私は笑った。

「この人たち、
 “守る”の才能あるよ」

燐牙は、
フッと小さく笑った。

「……そうだな」

窓の外。

夕焼けが、
街を包んでいた。

鬼千会ホワイト化計画③。

それは、
**“誰かの役に立つ”
という初めての経験**だった。

そして私は確信する。

――この組は、
まだ間に合う。