【完結】Blackberry

正直に言おう。

私は今、
**日本有数の極道組織の会長室で、
鬼千会会長に向かって説教をしている。**

しかも相手は――
夫だ。

「……でね?」

私は会長室のソファに座り、
机に広げた資料を指で叩いた。

「このままだと、鬼千会、
 そのうち本当に詰むと思うんだよね」

向かい側では、
新会長・一ノ瀬燐牙が腕を組んでいる。

無表情。
怖い。
いかにも「人を埋めたことがあります」って顔。

でも中身は――

「……詰むって、どういう意味だ」

ちゃんと話を聞く、真面目な人だ。

「警察、世間、外国マフィア。
 今の時代、暴力一本じゃ無理だよ」

私は深呼吸して言った。

「だから提案です」

ぴしっと資料を揃える。

「**鬼千会ホワイト化計画、第一弾。
 “合法的に稼ぐ”です**」

……沈黙。

燐牙が瞬きを一回。

「……ホワイト?」

「そう。
 白。
 クリーン。
 ピカピカ」

「……俺たち、ヤクザだぞ」

「知ってるよ」

即答した。

「でもね、
 “ヤクザ=違法しか出来ない”って考え、
 もう古い」

燐牙は眉間に皺を寄せる。

「……具体的に言え」

来た。

私は内心ガッツポーズした。

「まずは――
 飲食店、不動産管理、運送業」

「……普通だな」

「そう、“普通”が大事なの」

私は身を乗り出す。

「普通に働いて、
 普通に税金払って、
 普通に稼ぐ」

「それが出来るだけで、
 警察の圧、だいぶ減るよ?」

燐牙は、少し考え込む。

「だが、
 あいつらが素直にやると思うか?」

「思わない」

即答。

「だから、
 **私が教える**」

「……は?」

「帳簿の付け方、
 接客、
 クレーム対応、
 仕入れ管理」

私はにこっと笑った。

「元ヤクザが本気で飲食店やったら、
 怖いくらい優秀だと思うんだよね」

燐牙が、
わずかに口元を緩めた。

「……お前、
 本気で言ってるな」

「本気だよ?」

「失敗したら?」

「その時は、
 私が土下座する」

「お前がする必要はねぇ」

「じゃあ、
 一緒に土下座しよ」

「……やらねぇ」

ちょっと笑った。

その時――
ノックもなしに、
幹部の一人が入ってきた。

「会長、
 奥方が何か妙なことを――」

「妙なことじゃありません!」

私は即座に立ち上がった。

「未来の話です!」

幹部は私を見て、
露骨に嫌そうな顔をする。

「女に何が分かる」

来たな。

私はにっこり笑って、
こう言った。

「じゃあ聞きますけど」

「この中で、
 確定申告ちゃんと出来る人、
 手あげてください」

――沈黙。

誰も、
本当に誰も、
手を挙げなかった。

「ですよね」

私は満足げに頷いた。

「だから、
 私の出番です」

幹部たちの顔が引きつる。

燐牙は、
小さく溜息をついた。

「……分かった」

その一言で、
全員が驚いた。

「まずは、
 試験的に三店舗」

「失敗したら、
 俺が責任を取る」

燐牙は立ち上がり、
私の肩に手を置いた。

「だが――
 成功したら、
 誰も文句言わせねぇ」

私は、思わず笑った。

「会長、
 かっこいい」

「やめろ」

「えー」

こうして――
鬼千会ホワイト化計画①は、
**奥方主導でスタート**した。

なおこの後。

元武闘派の組員が
「いらっしゃいませ」を
凄まじい迫力で叫び、

クレーム対応で
正座しそうになる騒ぎが起きるのだが。

それはまた、
別の話。