ハリボテロミオの夏の夢


「……おはよう」


そう言う僕の声に、返事はなかった。
僕が寝ている間に母は家を出てしまったようで、玄関にあったピンヒールがない。
代わりにダイニングテーブルには朝食の準備がされていて、一言『紙袋よろしくね』とだけ書かれたメモが置かれていた。
最低限伝わればいいというのが、あの人らしい。

ふと、そのメモの横を見ると、そこにはどこかの高校のパンフレットが置かれていた。
表紙に書かれていた高校名は、


「……私立ウィリアム学園……って……」


超有名な演劇科がある高校じゃないか。


「……何考えてんだよ」


僕がこんなところに行けるわけがないのを一番知ってるのは、あんただろ。
乱暴にパンフレットをゴミ箱に捨てて、僕は冷めてしまったトーストにかぶりつく。
急いで食べた朝食は、まったく味がしなかった。


「……行ってきます」


朝の支度を簡単に済ませて、僕は足早に家を出る。
寄りたくはないけれど、今日は旧校舎へ寄らないといけない。
手に持った、紙袋が重い。

さっさとこんなもの、手放してしまおう。
そう思いながら、僕はいつもの通学路を急いだ。