大会1日目は、他校の演目を観覧して終わった。
いつもだったら楽しく観られるのに、この日は何も頭に入って来なかった。
ほとんどの部員が学校に戻って自主練をする中、僕は1日目が終わるとすぐに自宅に帰って寝た。
三匹も、僕の気持ちを察してなのか、とても静かで、あまり僕と話をしなかった。
そして、大会2日目……僕たちの公演の日だ。
重い足取りで楽屋に入ると、僕は震える手でロミオの衣装に腕を通す。
幸い、蘭くんと背格好が一緒だったので、手直しをほとんどしなくてすんだ。
そして鏡台の前に座ると、僕はメガネを外して、髪の毛をセットする。
と言っても、軽く整える程度だ。
すると、
「……玲央、お前大丈夫か?」
「うん……なんとか」
僕を心配して、汐恩が声をかけてくれた。
当然だ。今まで裏方ばっかりだった僕が、いきなり主役の代役をすることになったんだから。
「まさかお前が代役なんてな……」
「そう、だね……」
僕は鏡越しに汐恩を見る。
汐恩は、ただまっすぐ僕を見ていた。
「……でも、あの演技なら大丈夫だ!自信持てよ!!」
そう言って、汐恩は僕の背中を叩く。
「うん……ありがとう」
あれは、僕が演じたわけじゃないけど……とは言わなかった。
言えるわけがなかった。
これから、舞台に立つのは僕じゃない。
アルだ。
だから、緊張もしていない。
むしろ、変に落ち着いていた。
「実はさ、俺……スッゲー嬉しいんだ」
「嬉しい?」
なんで?
と、汐恩を見れば、汐恩は僕の方を見てにかっと笑った。
「お前さ、昔色々あっただろ?だからまた舞台に立ってくれて、嬉しいんだよ……」
「汐恩……」
汐恩は、僕の過去を知っている。
知っていて、ずっと変わらずに僕と接してくれた、大切な友人だ。
だからきっと、汐恩なりに思うことも色々あったんだと思う。
それをずっと僕に言わないで、友人として接してくれたんだ。
なのに、
「俺……実はさ、また舞台に立つお前を観たかったんだ……。お前が舞台に立つために、めちゃくちゃ頑張ってたの、知ってるから」
「……そっか」
なのに僕は……これからその親友を、裏切るのか。
「ったく、なんだよその返事は!シャキッとしろよ!!!」
そう言って、汐恩は僕の背中を思いっきり叩く。
「ッ……たっ!」
「ほら、集中、集中!!!」
汐恩なりに喝を入れてくれたんだろう。
背中が、ジンジンと痛い。
いや、痛いのは……背中だけじゃない……か。
「……うん。ごめん、僕、ちょっとトイレ行ってくる……」
そう言って、僕は楽屋をでた。
後ろからは、早く帰ってこいよ!と汐恩が聞こえたけれど、僕はその声に返事をしなかった。
