「玲央!それこっちにおいて!」
「はい!」
「あー、待って待って、先にこれ持っていくから!」
大会前日。
地方大会を勝ち抜いてきた10校が、朝から会場になる劇場に集まっていた。
あちこちから大きな声が飛び交って、会場内はバタバタしている。
大会自体は全部で2日間の日程で行われて、僕たちの出番は2日目の3番目だ。
なので、今日の会場練習も8番目に行うことになっている。
それまでの間に、機材の搬入やできる限りの確認を行わなければならない。
「やっぱり、公演前ってバタバタしてるねぇ」
「この空気……いい緊張感ですよね」
「ちょっとみんな!邪魔にならないように静かにしててね」
「わぁってるって。俺様たちは敵城視察だ」
そう言って、イデが二匹を連れていく。
多分、会場で他の学校のゲネプロの様子を見に行くんだろう。
なんだかんだで、イデはあの三匹の中で一番演劇が好きみたいだし。
「本当、自由だなぁ……っと!」
「おわっ!?」
ぼーっとしていた僕の後ろから、ドンっと、誰かがぶつかってきた。
慌てて、僕は倒れそうになったその人の体を受け止める。
「だ、大丈……ッ」
夫?
そう言い切る前に、僕は言葉に詰まる。
目に飛び込んできたのは、くりっとした丸い琥珀色の目だ。
いつも遠目に見ていたそれが、すぐ目の前にある。
いや、昨日見た。
見たけど、昨日は色々必死すぎて、それどころじゃなかったんだ。
うわぁ……改めて見ると、めちゃくちゃまつ毛長い。
ってか口も結構小さくない?これであの声量が出るとか、すごすぎるんだけど……。
「ご、ごめん、玲央くん!大丈夫!?」
「え、あ……うん!ぼ、僕は大丈夫!!!」
と、しどろもどろになりながら、僕は朱里さんに答える。
「ごめんね。前見えてなくってつまづいちゃって」
「き、気をつけて……朱里さんに何かあったら大変……」
「朱里!大丈夫か?!」
僕が言い切る前に、遠くからやり取りを見ていた蘭くんが駆け寄ってきて、僕から朱里さんの体を奪っていった。
「うん。大丈夫。玲央くんが受け止めてくれたから」
「ったく……気をつけろよな……」
「あはははは。面目ない」
「もうすぐ俺たちの番になるから、急げよ?」
「うん。わかった。ありがとう玲央くん!もうすぐ私たちの練習時間だから、いそご!」
「う、うん」
そう言って、朱里さんは行ってしまう。
嵐のようなやりとりに、思考が追いつかない。
とりあえず、僕は落とした荷物を拾う。
どうやら、昨日のことはバレてないみたいだ。
「……よかった」
「何がよかったんだ?」
「ひっ!」
何驚いてんだよ……。
そう言うのは蘭くんだ。
てっきり、朱里さんと一緒に衣装を着に行ったと思っていたのに、まだここにいたらしい。
「あ、え……と、その……ご……ごめん……」
「あ?なんで謝ってんだ?」
「あ、だって……朱里さん、蘭くんの彼女……なのに……」
そう伝える。
だって、変な誤解があってはいけないから。
「彼女?俺が?違う違う!」
蘭くんは目を丸くして、すぐに顔の前で手を左右に振った。
「へ?そうなの?」
「そうだよ。あいつ、ガキの頃からの片思い拗らせてんだから」
「へぇ……」
そうなんだ。
確かに、昨日もずっと好きな人がいるって言ってた。
あれ、本当だったんだ。
「んなどーでもいいことより、目の前のことに集中しろ!もうすぐ俺たちの番なんだぞ?」
「そう、だね」
ふわっと、気持ちが軽くなる。
そうか。
蘭くん、朱里さんと付き合ってなかったんだ。
「俺も早く着替えねぇと……お前も制御室だろ?」
「う、うん!」
「お互い、頑張ろうな!」
そう言って、蘭くんが僕の背中を叩く。
その痛みでぽわぽわした気持ちが、一気に吹き飛んだ。
そうだよ。何考えてるんだ、僕!
今は大会に集中!!!
気持ちをなんとか切り替えて、僕は制御室へ向かった。
