愛する人とは結婚しません!

私は殺された…

身体が深い深い海の底に段々と沈んでいくのが分かる…

私は睡眠薬を飲まされて、そのまま海に沈められたのだ。

遠い意識の中で、静かな波の音と潮の香り、そして、冷たい水の感触だけが残っていた。

その時、私のお腹の中には赤ちゃんが居た…

ごめんなさい…
私の赤ちゃん…
来世では、ちゃんと会いたいわ…

♦︎♦︎♦︎

目覚めると、そこは冷たい海の底…
では無く…

温かいベッドの上だった。 

「え…
どうして…
私は…?」

そう、殺されたはず…

でも、ここは天国でも地獄でもなくて…
私の結婚する前の実家の私室である…

「おはようございます!
エイリス様!」

メイドのマリンがそう言ってハーブティーを持ってきた。
寝起きには、コーヒーか紅茶か、ハーブティーを飲むが、このメイドが私の朝の気分を外した事はほとんど無かった…

「ねぇ…
マリン…
今何年?」

「は…?
今日はエイリス様の19歳の誕生日ではありませんか!」

19歳…

ほんとうに…?

私、2年前に巻き戻ってるの!?

私はベッドのサイドテーブルに置かれたハーブティーを置きっぱなしにして、カレンダーに駆け寄った。

確かに…

今日は1599年の2月5日…

私の誕生日だわ…

やはり、2年前に巻き戻っている…!?

私はぼーっとしながら、ベッドに戻った。

「あら…?
今日はハーブティーではなかったですか?」

「えぇ…
今日はコーヒーをいただくわ。」

私は言った。

「何か悩み事でございますか?」

マリンが言うので、私は不思議に思って尋ねた。

「何故そう思うの?」

「ふふふ。
エイリス様は、何か悩み事がある朝はコーヒーを飲まれることが多いのですよ。
穏やかな朝にはハーブティー。
不安定な朝には紅茶。
元気な朝にはレモネードなんかも…」

「まぁ!
それで私の気分を当てていたのね!」

「えへ。
ばれちゃいましたね。」

人懐こい笑顔でそう言うマリンを、私はもちろん咎める気は全く無かった。

でも、どうして…?

神様が私に何かを伝えようとして…?

私はコーヒーの苦味で頭を覚醒させ、その深い味わいに少し心を落ち着けた。

「今日は晩餐会を開くのよね?」

「えぇ!
エイリス様のお誕生日ですからね!
エイリス様はお美しいですもの!
きっと山のように求婚者が現れますね!」

「どうかしら…?」 

私の旦那になるはずの、ジューク様もお見えになる…?
私が未来で愛した人…

けれど…

私は未来をやり直さなくてはならないのよ…!

そして、淡々と晩餐会の準備が進められた。
私はいつもより少し派手な髪飾りを付けて、赤いドレスに袖を通した。