闇底の純愛




着替えて、歯を磨いて、髪を梳く。


私が家を出る準備が終える頃には、もうシンクの洗い物も全て片付いていた。



「……シンクの底、久々に見た気がする。なんか綺麗になってる?掃除してくれたの?」

「軽くだけね。…ていうか、久々に見たって…何日間洗い物してなかったの」

「…使いたいやつだけ引っぱり出して洗ってたから」

「酔ちゃん……」


呆れたような京の視線を無視して、玄関に向かう。


「行くよ」



靴を履いて、外に出る。


5月末。梅雨の湿った空気が、じわりと肌に張りついた。


少し遅れて京が出てくる。
鍵を閉め、二人で並んで歩き出した。


会話は無く、足音だけが住宅街に響く。




京は隣でスマホを弄りながら、何度も小さくため息をついていた。

画面を見下ろす横顔は、どこか気が重そうで、眉間にうっすらと影が落ちている。


京もそんな顔をするんだ。


そう思うと少しだけ興味が湧いて、ちらりと画面を盗み見る。

画面に表示されていた名前は、「真奈美さん」。


……女だ。


だけど、いつも教室で女に囲まれてる時にしてるような軽率な笑みを浮かべていない。

なんなら、面倒臭そうだ。

好きで女遊びをしている、というふうには見えなかった。



なら、なんで辞めないのだろう。


不思議に思ったが、考えても理由は分からない。

京には京の事情があるのだろう。
そう区切りをつけ、視線を前に戻す。


そして、それ以上気にすることもなく、そのまま歩き続けた。