闇底の純愛




最初は小さく、堪えるみたいな声だったのに、だんだん堪えきれなくなって、やがて腹の底から笑い始める。



喉が鳴り、肩が揺れる。

大爆笑も大爆笑。


この男がこんなに笑ってるところを、見たことがない。



こいつ、ここまで笑えたのか。


それに驚いて暫く京を見てたが、やがてすぐに怒りがこみあげてくる。



「〜〜もう!片付いてないって言ったじゃん!!だから上げたくなかったのに」

「いや……っふ、ごめん、想像してた以上に片付いてなくて……」

「うるさい!文句があるなら出てけ!!」

「くっ、あはっ、あははははっ!!!」




ひとしきり笑ったあと、京は涙が滲んだ目尻を指で拭い、息を整えた。

「ひーっ、腹痛てぇ」


「失礼な。……パパッと片付けるから、邪魔にならないとこに立ってて」

そう言って、2人分の場所を確保するため、まずは床にも散乱してるプリントを掻き集める。



「なんか、酔ちゃんも人なんだね。」

まだ笑いが抜けない顔で言う。


「どういう意味??私が人じゃ無いって言いたいの?」


「違う違う。だって酔ちゃんって掴みどころないし、いつも冷静でなんでも完璧にこなすじゃん。隙がなくって、私生活とか全然想像がつかなかったから、なんか、安心したっていうか…」


「………」



返す言葉が思いつかなくて口をつぐむ。



掴みどころがないと言われたのは、私が誰とでも一定の距離を保っているからだ。

そうするようになったのは……。



そこまで考えて、軽く頭を振って思考をかき消し、軽い口調で応える。


「何言ってんの。私も人に決まってんじゃん。」

「いや、そうなんだけどさー。なんか、感情あるのかなってたまに思うから。だって、怒ってる顔、今日初めて見たし、笑ってる顔も見たことないなー。なんだろう、人間味薄いというか…」



それはお互い様だろう。

京だっていつもヘラヘラ笑ってて、なに考えてるか分からない。

そう思ったが、口にすることはせず、ドアノブに手をかける。



「私お風呂入ってくるから。京、ベッドの上の洗濯物畳んでおいて」


そして、部屋のドアをバタン、と後ろ手で閉めた。