――Eve side――
夜風がさっきまでのざわめきをさらっていく。
あの子はもう、角を曲がって見えなくなっていた。
それなのに視線だけがそこに縫い止められたまま動かない。
……なんだ、今の。
知らないはずだ、関わったのはほんの数分。
それなのに、胸の奥がじわりと騒ぐ。
俺はフードを指で下ろし、軽く息を吐いた。
名前を呼びかけそうになって、喉の奥で止まる。
――なんで呼ぼうとしたんだよ。
似ているだけだ。
そう思い込もうとした瞬間、脳裏に勝手に映像が割り込んでくる。
夕暮れの公園。
錆びたブランコに並んで座って、足だけぶらぶらしていたあいつ。
「一颯、また喧嘩したの?」
「してねぇよ」
「……嘘つき。目の下が腫れて血出てるよ」
そう言って俺に絆創膏を渡してきたあの表情、笑い声。
……いや、違うよな。
あいつがこんなところにいるはずはない。



