イブが私の名前を知るはずがない。
振り返らずに歩き出すと、胸の奥に言葉にできない違和感だけが残った。
「……ねぇ」
少し歩いたところで、ミオが小さな声を出した。
「今の……本物のイブだよね?」
「え?」
「噂の、じゃなくて。本物だよね!?」
ミオの声はほんの少し震えていた。
「やば……本当にいたんだ……」
私は「うん」とだけ答え、もう一度振り返ってみた。
でも、もうそこには彼の姿はなかった。
なのに。
胸の奥で、やっぱり何かが引っかかる。
ーーー夕方の空。
ーーー公園のブランコ。
ーーー「凪」って、呼ぶ声。
……違う。
首を振って、その考えを追い払った。
こんな場所で、こんな形であの子に会うわけがない。
なのに。
あの目、あの声、笑った時にできるえくぼ。
すべてがそっくりだった。



