桐生くんには敵いません!


 さあちゃんが関西弁を話すのは、本当に心を許したごく一部の人間だけだ。
 この教室の中では、私と桐生くん。それと桐生くんとさあちゃんが私を挟んで言い争っているのを偶然目撃してしまった梶くんしか知らないと思う。
 普段は物静かで可憐に微笑むお嬢様キャラを演じている、というよりも心を開いていない人に対しては自然とそう振る舞ってしまうらしい。

「あ、梶くん宿題やった? ちょっと教えて欲しいんだけど」
「お――、宿題という存在自体忘れてた。オレもやってないに決まってるでしょ、望月さん。お互いにがんばろうぜ」
「だよね、そうなるよね」

 普通が取柄の私達は、宿題を忘れるとこまで妙に気が合う。
 エイエイオーとお互いに励まし合うと梶くんはノートに数式を書き始めた。
 私も机の上に数学の教科書とノートを並べ、半分解き始めたあたりで、一足先に女子の群れから解放された桐生くんが前の席に座りノートを覗き込んできた。