「ちょ、近いやろ。やめえや、桐生! 福が怖がってるやろ」
さあちゃんは私を抱き寄せて、シッシと手で虫を払うような仕草を桐生くんに向けた。
「でもさ、オレだってなんだか心配になるよ。今日の望月さん、ご飯もあまり食べてないし。なんだか静かだし、心ここにあらずでしょ? 顔も赤いし……、あ! わかったかも!」
梶くんが人差し指を立てて、閃いたとばかりに顔を綻ばせるのを全員が注目した。
「望月さん! あれでしょ、ズバリ恋患い。相手は、二時限目休みに、どら焼きをあげてた隣のクラスの男子じゃない?」
待って……梶くんに見られてたの?
つうか、恋煩い? 誰が? 私が? え?
「誰や、どら焼きの男っちゅうんは! 梶、案内しい。うちに断りもなしに、福をたらしこもうやなんて、絶対許さへんで!」
立ち上がろうとするさあちゃんにしがみついて引き留める。
「ち、違うよ、さあちゃん! そんなんじゃないから! 違うから! 梶くんも見てたなら話を端折らないでよ~!」
慌てて誤解をとくために、麻木くんの落とし物を拾ってあげたこと。話の流れで彼が望月和菓子店のお得意さんであり、どら焼きが好きだということを知り、今日の水菓子が偶然それだったから自分の分をあげたことを説明した。

