桐生くんには敵いません!

「なんで殴らなかったの?」

 冗談ぶって笑う桐生くんに。

「私なりには殴り返した気分だよ」

 そう伝えたら、プハッと噴き出して、なるほどねって笑い転げてる。

「まあ、さっきのやり方は福ちゃんらしいや。断ることができて良かったじゃん?」
「うん、なんかスッキリしてる。桐生くんのおかげ、ちょっとは変わることできた気がするよ。ダイエットのことも、ありがと。見た目じゃないかもしれないけど、容姿をイジられるのもイヤだったから痩せることができて良かった」
「へえ?」
「ん?」
「そっかあ、俺のおかげかあ、へえ」

 ニッと口角をあげて笑う、あ、これは悪魔笑顔の方の桐生くんだ!
 私の中で芽生えつつある桐生來人危険数値能力が発動した、ヤバイって。

「じゃ、じゃあ、お先に! また明日」

 あわてて逃げ去ろうとしたけど一歩遅かった私は、桐生くんに首根っこ掴まれて止められる。

「そうそう、福ちゃんって花見が丘中学受けるんでしょ? オレもそうするね」
「ふおっ⁉ なんで? どこからその情報を!」
「福ちゃんがいるなら楽しそうだしね。喜んでよ、オレと同じ中学に行けるんだよ? あ、受験勉強も付き合ってあげるね? 夏休みからにしよっか」

 ジョギングの次は地獄の受験勉強とか。

「ダイジョブです、自分でやるんでハイ」
「ダイジョブじゃないよね? 俺が教えるって言ったら絶対だよね?」

 至近距離で覗き込む魅惑の笑顔に背筋を凍らせながらも、顔と思考回路だけは熱を増してショートしちゃって、気付くとコクンと頷いちゃってたあの日の自分のだらしなさを一生忘れることはないだろう。