桐生くんには敵いません!

「ねえ、福ちゃん。さっき何でも言うこと聞くって言ったよね?」
「……言った」

 しゃくりあげながら睨むと、桐生くんはポケットからハンカチを出して私の目に宛がう。

「福ちゃん。明日、朝六時に市役所の前に来て。ジャージでね!」
「え? なんで……」
「それは来てからのお楽しみ。あ、ハンカチはちゃんと洗って返してよね。鼻水は絶対にかまないで」
「かみません!」

 そんなことするわけない、と顔をあげたら桐生くんが少しだけ笑ってた。

「俺だって自信なんかないよ? でも、そういうので自分に自信をつけたいって思うなら手伝うわ、福ちゃん面白いから」

 ……どういうこと?

「福ちゃんのへなちょこグーパンチとアッカンベエが、最高に面白かったんだよな、本当に数カ月ぶりに笑ったわ。だからそのお礼。あと福ちゃんって、他の女子と比べて俺に媚びないもんね」

 い、いや、媚びる前に性格を知ってしまったから、なんですが……。

「そうそう、福ちゃん家って望月和菓子店?」
「なんで、知って」
「ん? 学校来る途中で同じ苗字の店見かけたけど、やっぱそうなんだ。じゃあ、明日来なかったら迎えに行くね」

 し、しまった! 今ので家を知られてしまった!
 今更ながら個人情報を自爆してしまったことに気づく。
 私の焦り顔を見て笑う桐生くんはやっぱりキレイで天使みたいなんだけど、その心はどっちかというと悪魔寄りだ。それなのに。

「じゃあね、福ちゃん。お掃除頑張って」

 夕陽に照らされたその美しさにまたドキッとしてしまうのは何故だろう。
 去っていくその背中を見送ってから、ハッと思い出す。
 掃除、忘れてた~!